スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
 ライザスはすっかり元の冷たい夫に戻っている。
 だが、いずれこうなる未来だ。
 今から慣れておいたほうがいいだろう。
 しかし、これほど胸が痛むとは思わなかった。

(せめて昨夜のことがなければ……)

 あんなことがなければ平然としていられたはずだ。
 少なくともライザスの素顔を知らなければ、これほど傷つくことはなかった。

(やだ、すごく悲しくなってきたわ)

 がっくりと肩を落とすリリアに、マリーがひっそりと励ましの言葉を口にした。

「大丈夫です。ものすっごく不器用なだけですから」
「え……?」
「まるでお子さまを見ているようですわ」
「それは言いすぎよ」

 だが、まあライザスはこれまで女性に興味を持たなかったというのだから、おそらくこれが初めての恋なのだろう(偽りだが)

「初心な恋心を抱いた少年が好きな女の子を避けてしまうあれです」とマリーが言うので、リリアは多少無視されても傷つかないようにしようと心構えをしておいた。

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