スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
 窓の外へ目を向けると雨がしとしと降っている。
 まるで自分の心を映しているようだ、とライザスは感傷に浸った。

「我慢なさらなくてもいいのですよ?」
 と執事のアベールが口を出してきた。

「お前、いつからいたんだ?」
「最初からいます。旦那さまは奥さまのことで頭がいっぱいですから私の存在など忘れてしまっているのでしょう」
「妙なことを言うな。俺は正常だ」
「そんなに無理なさらなくても、奥さまにお会いすればよろしいではないですか」
「うるさい。会うわけにはいかないんだ。会ってしまったら……」

 ライザスはテーブルに両手をついてうつむく。

(妻に会ってしまったら俺は何をするかわからない)


 実はリリアと寝室をともにした夜、ライザスは一睡もできなかった。
 となりでぐっすり眠ってしまったリリアを見て、彼は耐えられなくなり、そのまま体を起こして彼女を組み敷いた。
 眠っている女に手を出すなど、なんたる卑怯者かと思い、幾度となく「だめだだめだやめろだめだ」と言い聞かせたが、ついに唇にキスをしてしまった。

 リリアはまったく気づいていない。
 了承もなく勝手にそんなことをしてしまったことの罪悪感が猛烈に襲ってきて後悔している。

(添い寝などできるものか! 次に寝室をともにしたら間違いなく手を出してしまう)

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