スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
 しかしリリアは急に血相を変えて、くるりと背中を向けた。

「お邪魔して申し訳ございません」
「いや。わかってくれたなら」
「もう旦那さまに声はかけませんから」
「え?」

 リリアの背中がわずかに震えている。
 ライザスは眉をひそめた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「迷惑ではない」

 リリアの様子がおかしいと思い、とっさに彼女の肩を掴んで振り向かせる。
 するとリリアは涙をぼろぼろこぼしていた。

「なぜ泣いている?」
「これは少し目が痛くなってしまって……」
「大丈夫か?」
「目を洗いたいのでこれで失礼します」

 リリアはライザスの手を振り切って走りだした。
 ライザスは意味がわからず呆然としている。


 実はふたりの様子を植木の陰からこっそり覗いている者がいた。
 マリーだった。

「不器用すぎか!!!」

 マリーは苛立つあまり呆れ顔で吐き捨てる。

< 71 / 174 >

この作品をシェア

pagetop