スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
 夜になるとベッドにとなり合って手をつないで眠った。
 ライザスは手を出してこなかった。
 その理由はこの感情がスキルのせいであるとわかっているから、一線だけは越えないようにしていた。
 責任感の強い彼の屈強なる精神力にリリアは驚いた。

 リリア自身はそれが偽りであっても、彼ともっと親密になりたいという思いがあった。
 ただそれは、心の中に秘めておいた。


 ライザスとリリアは一日中どこへ行くのも一緒だった。
 その様子に周囲は驚いたが、もっと衝撃的なことがあった。
 それはちょうどふたりが廊下を歩いていたときのこと。
 たまたま掃除をしていた使用人が気づいてふたりに道を開けたが、うっかり持っていたバケツを床にぶちまけてしまったのだ。
 その際、汚れた水がふたりの服にかかってしまった。

「も、申し訳ございません! ああ、私はなんということを……」

 バケツをひっくり返した使用人は血相を変えてふたりの前で膝をつき、深く頭を下げて謝罪した。
 他の使用人たちは慌てて雑巾を持ってくる。
 ライザスが険しい顔で使用人を見つめたが、リリアがとなりで彼の袖を引っ張った。

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