スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
「どれだけ金を積んでもいい。ささいな変化を見逃すなよ。妻は俺にとって命より大事な存在だ」
「は、はぁ……しかし」
「何だ?」

 医者は冷や汗をかきながら、おずおずと答えた。

「奥さまは胃炎なので、命にかかわるようなことはないかと」

 しーんと不気味なほどの静寂が訪れる。
 ライザスは放心状態になり、医者は気まずそうな顔で目をそらす。
 彼らの背後でマリーがぶふっと吹き出した。
 リリアはにっこり微笑んで、冷静に彼に説明する。

「お腹がキリキリするように痛くて食欲がわかなかったのです。今朝は少し熱があったのですが、お薬でよくなりました」

 呆気にとられていたライザスはリリアの言葉で正気に戻った。

「そ、そうか……大丈夫なのか?」
「はい。せっかくお帰りになったのに、こんな姿で申し訳ございません」
「いいんだ。あなたが元気ならそれで……いや、元気ではないのか」

 勘違いを恥じて狼狽えるライザスを見たリリアが、そっと彼の手を握って微笑んだ。

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