スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい

「少し食欲が出てきました」
「そうか、それはいい。長く留守にしてすまなかった。寂しくはなかったか?」
「旦那さまがたくさんお手紙をくださいましたから」
「しばらくは一緒にいられる。ふたりで町へ出かけて観劇の鑑賞でもしようか」
「それは楽しみです」
「そうだ。新婚旅行もしよう」
「素敵ですわ」

 ふたりのやりとりを離れたところで見ていた医者はマリーにそっと話しかけた。


「侯爵さまはずいぶん変わられましたな。あのような明るい表情は今まで見たことがない」
「溺愛の力です」
「よほど奥さまを愛していらっしゃるのですな」

 マリーはスキルのことを言ったつもりだったが、医者は本当の愛だと思ったようだ。
 しかし、マリーはそれを否定しなかった。

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