二十年前の私と二十年後のあなたへ

ここしばらく続いている入院生活…

はやくも二ヶ月が過ぎ去りようとしている。
ほっと小さな息をつき、
何気なく彼方の空を見つめる。いつの日も変わらない
ゆっくりと静かに流れる雲を追い、
うすらまぶしく照りつける光が溢れ、
両手に目をうつすとき頬から熱く何か流れ落ちる。
身を切るような冷たい風。
どこか寂しいような切ないような、人恋しくなるこの季節。



 
二十年前もこの思いであった。





 物思いに耽った私はいつも夢中で駆けていた。

自転車で明け方も、真昼も、深夜も刻々と生命を刻むように業病に訴え、駆け抜けていた。

自分自身の闇に打ち勝ちたい、その一心で学業の傍らジムでのトレーニングとスイミングに励みプロテインを次々と注ぎ込み、
体躯を強く太くしていった。
 鍛えられたのか、

次第に気が大きくなっていった。


毎日何かしらの活動し元気でもあるので、根拠のない自信がついていた。この時点から未来にわかることだが、
それは脳内の神経伝達物質ドーパミン、セロトニンが過剰に放出されていたため、

辛いことを苦しいと感じず、快活で充実しているならばそれはそれでいいじゃないか………
 

私は一種の錯覚に陥っていた。
 

そして、
 或る日から私は統合失調症のお薬の服用をやめてしまった。
 生活にはあまり困っていないし、寝つけさえすれば贅沢はいうまいと、
完全に固定観念が歪んでいった。そもそも夢中になり忙しくもある毎日で服薬タイミングを逸してしまいがちなことがたびたびあった。

中途覚醒と昼間の眠気があらわれハイテンションは夜まで続き、眠剤が効くまで散歩する深夜徘徊を始めた。

 季節はいつの間にか進み、肌寒く、私は冬眠するかのように毎日 横になっていた。

 そういえば抗精神病薬を随分と服用していない。深い眠りの後、深夜徘徊を繰り返す私は次第に幻想の中にすっかり居着いていた。
 

ある晩のこと、私はレストランの扉のガラスを割り、座り込む。瞬く間に屈強な男たちに押さえ込まれる場面を最後にここから記憶を失う。
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