レンズ越しの君へ
それ以上でもそれ以下でもない。

「行こ、涼太!」

「うん、じゃあ失礼しますね。」

ペコリと礼をして行ってしまった。

なんでだろう。

すごく気になってしまう自分がいる。

「そろそろ花火、始まるな。俺らも行こう。」

瀬戸口君が言う。

私は黙ってついていく。

ドン

大きな音が響いて、空が明るくなる。

「うわ、綺麗だな…」

本当に綺麗な花火。

なのに今、頭の中に浮かんでいるのは…

ううん、気のせいだから。

他のこと、考えよう。

赤、リチウム、黄色、ナトリウム、…

こんな時に炎色反応。

なんで理系な私…

「風見、あのさ。」

瀬戸口君がこっちを向いた。

「もうわかってると思うけど、俺、風見のことが好きなんだ。ずっと。」

瀬戸口君はきっと、すごく優しい。

生徒会でずっと同じでよくわかってる。

「返事は急がなくていいから、考えて。」

高校最後の夏休みは、いろんなことがありすぎた。
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