レンズ越しの君へ
おかしいよ。

こんなの、おかしい。

「俺、菜穂が好き。本気なんだ。」

なんでそんな目、してるの?

「離して、お願い…」

「やだ。離したくない。」

力が強くて、全然振りほどけない。

私の目の前にいる涼太君は、一人の男の子だ。

「どうして俺じゃダメなの?年下だから?まだ中学生だから?」

違う。

全部違う。

ただ、自分のことが、気持ちが、心の中が自分でもわからない。

どうすればいいのか、わからない。

何に躊躇しているのか、何に怯えているのか。

それでも、私はこういうしか思いつかないの。

「涼太君は、私の生徒だよ。だから、そういう風には見れない。」

これがいいの。

「…そう。」

つかまれた腕はやっと解放された。

「わかった、先生。ごめんね、困らして。」

そして涼太君は机に向かった。

「早く、教えて。先生。」

その日から涼太君は私のことを先生、と以外は呼ばなくなった。
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