レンズ越しの君へ
気が重い。

受験を理由にやめる、ってことも思いついたけど、でもそれだったら涼太君だって受験のために家庭教師を雇っているのに意味がない。

「涼太君、お邪魔します…」

ノックをすると返事がない。

いないのかな?

ガチャ

扉が開いた。

「涼太ー、誰か来てるよ?」

「ん、家庭教師の先生。そう言うことだから、結奈帰って。」

「もう、何よ。じゃあね、バイバイ!」

わたしの横を通り過ぎていった女の子。

中学のセーラー服を着ていたのに、私よりもオシャレで、大人っぽくて。

「ごめんなさい、先生。」

通り過ぎたあと、少し香水の香りがした。

「ううん、私こそ、お邪魔しちゃって…」

彼女、かな。

涼太君、モテそうだもん。

彼女くらいいたって全然不思議じゃない。

「今日は何からやる?」

「ねえ、先生。」

顔を上げると、そこには涼太君が私を見つめていた。
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