レンズ越しの君へ
隣を歩く涼太君をチラリと見る。

なんだか少し背が伸びた?

顔つきも大人っぽくなった気がする。

「そうだ、俺さ、この前の模試、春日台A判だったんだよ。すごいでしょ?もう数学もバッチリだよ。」

そっか…

涼太君、頭良いもんね。

私が教えなくたって、どんどん成績は伸びてたし。

「ていうか、俺さっきから先生って呼んでるけどもう先生じゃないのにね、変なの。」

「そう、だね…」

なんでだろう。

正しいことを言っているのに、なぜかとても悲しくて、寂しくて、そんな変な気分。

「ここで良いんだよね?ハイ、先生。」

ダンボールを手渡される。

「ありがとう、涼太君。」

「じゃあね、バイバイ。」

その背中がやけに遠く感じる。

もしかしたら、これが最後に会える時間だったのかもしれない。

どうしたんだろう。

私、おかしい。

「…やだ…」

行かないでほしい。

離れないでほしい。


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