レンズ越しの君へ
「楽しかった?」

「まあ…」

急に泥だらけの自分が恥ずかしくなる。

体操服に大きく書かれた名前を隠したくなる。

「私は運動ってさっぱりだから、体育会苦手だったなあ…いつもビリ。涼太君は足も速いんでしょ?」

「…そんな…」

さっきまであんなに会いたい、触れたい、と思ってたのに今は自分が汚いから、臭いかもしれないから先生に近づけない。

「この前の高校の体育会ね、聡太君すごく速くてびっくりしちゃった。」

むかつく。

先生がたとえ兄貴であろうと他の男を褒めてるとむかつく。

俺はそれくらいガキで小さい男なんだ。

「涼太君、疲れてる?…もしかして、待ってたの迷惑だった?」

先生が足を止めた。

あ、また間違えた。

こんな顔、させたいわけじゃないのに。

こういう時、兄貴なら、どうするの?

あれ、わかんない。

兄貴なんかよりも女の子のこと、わかってるつもりだったのに。
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