幼なじみは狐の女の子で可愛がってます。2
体育祭の練習はいよいよ本格的になってきた。
授業を丸一日使った1年から3年までの合同練習がある日も、珍しくはなくなってきた。
合同練習の初日、リレーの練習の後、宗介と䄭風は嫌そうな顔で二人三脚の列に並ぼうとしていた。
「足の紐を結んであげる」
自分の出場種目が終わって、戻ってきていた恋が困り笑いで言った。
「2人とも足早いから。やっぱり多分学年で五指に入るってまた言われてるよ。」
「だるい。出たくない。何でこいつと。」
宗介が言った。
「こっちのセリフ。今まで生きてきた中で最悪の思い出だ。」
䄭風が暗い顔で言った。
「見に来る家族も、僕がこいつ大嫌いなの知ってる。みんな僕を気の毒に思ってる。」
「決まっちゃったんだからって言うけど、何で?。変更不可って意味分かんない。」
宗介が言った。
「そういう融通は利かせるべきだ。相性悪い奴とペアな時点で、負け決定。」
「僕は足の速さはピカいちなんだ。上野のせいで負けるんだからな。」
「はあ?」
「お前とペアになって、気分は最悪だ。鬱になりそう。新田さんを手放すなら、大目に見てやってもいいけど。」
「ふざけんなよ。僕が恋を手放す訳ないだろ。」
「まあまあ」
理央がやってきて、2人を宥めた。
「2人とも俊足だからだよ。ねえ知ってる?。上野くんと樋山くん、この学校きってのイケメンペアってみんなに言われてるよ。恋と一緒に、イケメンペアの三角関係って言われてる。」
「イケメンペアの三角関係?」
「顔の事で騒がれるの好きじゃない。みんな顔しか見てないんだから。」
䄭風がそう言ったところで、突然、後ろからパシャっとシャッター切る音がした。
「ちょっと君たち!。」
恋達が目をパチクリしていると、後ろから茶髪のポニーテールの背の高い女の子と、黒髪のおかっぱでメガネをかけている女の子が現れた。
2人とも、ジャージの上から胸にカメラを下げている。
「誰?」
「以降お見知り置きを。私が新聞部の加納伊鞠、こっちが石巻桂香よ。」
「……3年」
背の高い方が自己紹介すると、メガネの方がぼそっと呟いた。
「って事は先輩かあ。何か用ですか?」
いつでもフレンドリーな理央が聞き返すと、伊鞠は芝居がかった仕草で宗介と䄭風を指差した。
「その2人」
「?」
「この体育祭の新聞のメインよ。1年のルーキー二人三脚イケメンペア!」
伊鞠の剣幕に圧倒されていると、桂香がカメラを取って、いきなり2人にシャッターを切った。
「!?」
「ねえ上野くんに樋山くん。今年の体育祭の新聞のメインになる気持ちはどう?」
「はあ?」
宗介が眉をひそめた。
䄭風が言った。
「肖像権の侵害。僕はこいつと居る所を写真に撮られたくない。」
「僕だって。」
「義務よ。君たちの。」
伊鞠があっさり言った。
それからいきなりガバっと回転して伊鞠が恋の方を向いたので、恋は驚きで一瞬固まった。
「時に。」
伊鞠が言った。
「時に……えっと、この子が恋さん?」
「ええ恋ですよ。新田恋、1年の。」
理央が言うと、伊鞠は嬉しそうな顔で恋の方を見た。
それから言った。
「新田さん。さっき小耳に挟んだけど、あなた1年のイケメンペアの三角関係の中心なんだって。あなたとこのイケメンたちの関係を深く深く教えて貰えるかな?。」
メモ帳とペンを手にハアハアと息遣いが荒い伊鞠を見て、宗介が言った。
「先輩。ちょっと、先輩達怪しいんで。恋に口聞かないでもらえますか。」
「そうそう。変な人に新田さんに近づいて欲しくない。」
䄭風が言うと、伊鞠は鼻で笑った。
「変な人じゃないわよう。私達は新聞部のホープ。」
伊鞠は続けた。
「何が何でも取材させて貰いますからね!。」
伊鞠は声音を変えた。
「時に新田さん。あなたはこの二人、どっちの恋人?」
「僕」
宗介が応えた。
「あなたたちは三角関係だって言うけど、それは本当?。」
「関係ない。学校の新聞に。」
䄭風が腹を立てて言い返すと、その顔を桂香がパシャリと撮った。
「……美しい」
桂香が呟いた。
「この綺麗な顔の二人の三角関係、絶対メインの特ダネになるわ!。」
伊鞠がそう叫んだ時、チャイムが鳴った。
またまたどうなることやら。