幼なじみは狐の子。2





 そしていよいよ体育祭当日。

 恋達生徒は、更衣室でジャージに着替えてから、グラウンドに椅子出しをするため、一旦教室に戻った。

 椅子を持って階段を降りていくと、同じようにして来る生徒達が沢山居る。

 恋は、ぶつからないように気を付けながら昇降口を出てグラウンドへ向かった。


 入場門の方には、先に椅子出しを終えていた男子達が集まっていた。

 恋は、椅子をクラスごとの定位置に並べると、入場門へ向かった。




 最初に全員整列しての選手宣誓があって、体育祭が始まった。

 一番始めの競技はダンスで、入場門から入っていった1年はグラウンドに等間隔に並んで今日のために練習したダンスを披露した。

 その次に徒競走があって、恋達は練習通り整列して50メートルを走った。



「ああ、面倒くさ」


 観客席ではちまきをした䄭風が椅子に座って俯いて言った。



「僕は今日が早く来て欲しかったんだ。早ければ早いほどすぐ終わるから。最初っからやる気なんてない。」

「今日晴れてよかったね」



 立ち上がってやってきた理央が言った。



「もうすぐ樋山くんと上野くんが出るリレーだよ。応援するからね。」

「リレーは良いよ。走るだけだから。好きな方、走るのは。」

「問題は二人三脚。」



 近くに座っていたはちまきを付けた宗介が暗い顔で言った。



「練習で何回もこけた。多分今日もそうなるな。樋山のせいで。」

「うざ。上野のせいの間違いだろ。」



 宗介と䄭風は足並みが揃わず二人の二人三脚は壊滅的と言われていた。
 二人ともやる気がなく先生が叱ってはっぱをかけても、時々立ち止まって歩いたりしていた。



「その代わりリレーは。うちのクラスが絶対勝つって言われてるよ。」


 理央が明るく言った。



「上野くんも樋山くんも頑張ってね。」

「リレーはね。」



 宗介が言った。


「走るだけだから良い。まったく何が楽しくて。ああ、だる。恋、僕の応援しなよ。」


 恋ははちまきを巻き直しながら、うん、と頷いた。



 ブロック対抗のリレーが始まると、観客は大いに沸いた。

 宗介の走るのは恋のクラスの席の前だったので、恋は一番前に座って宗介の勇姿を見た。

 走者が走ってきて宗介の番になると、バトンを受け取った宗介は勢いよく走り出した。

 だんだん宗介が近づいてきて恋の目の前を走る時、恋は思わず立ち上がって応援した。





「宗介!」





「上野くんかっこいー!」

「かっこいー!惚れるー!」

「上野くん頑張れ!」



 恋と女の子達の大きな声援の中、宗介はあっという間にスパートをかけて見えなくなり、一人抜かして、次の走者にバトンを渡した。



 向こうの方を走る事になっていた䄭風の応援に回った後、恋は自分のクラスの席に戻ってきていた。

 後ろから肩を叩かれて振り向くと新聞部の伊鞠と桂香が居たので、恋はぎょっとして身を引いた。

 伊鞠と桂香はやはりカメラを持っていた。

 今日は新聞部は大活躍で、部員たちは全員カメラを持ってうろうろしていた。


「さっきリレーが終わったわね。上野くんと樋山くん、リレーも代表だったでしょう。」


 伊鞠がそう言ってから聞いた。



「特ダネ特ダネ。新田さん、あなたはずばりどっちを応援してる?」

「両方してますよ」



 恋が困り顔で言った。


「……伊鞠、リレーより三角関係」


 桂香が呟いた。



「その通り!。新田さん、あなたとあの1年のイケメン2名の交流を、写真を交えながら特集したいのよ。」

「困ります」

「あ」



 リレーからクラスの席に戻ってきていた宗介が気づいて作り笑顔をした。



「先輩。何か用ですか?」

「その通り。」



 伊鞠が口を開こうとする前に宗介が言った。


「僕達なら良いけど、恋に関する事だったら迷惑なんで、帰ってもらえません?。困るんで。」


 きっぱり言って帰らせようとする宗介に、伊鞠も負けずに言い返す。

 押し問答はしばらく続いた。


「そんな事より、もうすぐ二人三脚だけど。」


 伊鞠が言った。



「勝算は?。勝つためにやっている事はある?。」

「僕に絡まないでもらえませんか。僕達に。樋山に聞いたら?。」



 宗介が怒り笑いをしてから、ハア、とため息をつくと、桂香が黙って宗介の写真をパシャリと一枚撮った。





 果たして二人三脚。

 宗介と䄭風は、リレーの勝利に沸いているクラスから抜けて、別々に二人三脚の列に並んだ。

 順番が近づく前に足を結んで、その辺を軽く走る。


「ハア……」


 並んで順番を待っている時、䄭風が盛大にため息をついた。


「うざ。」

 
 宗介が言った。



「こっちのセリフだよ。まったく何が悲しくてお前なんかと。テンション下がる。」

「今日で終わるから良い。練習最悪だった。僕も生きてきた中で最低の思い出だ。」

「言っとく。新田さんは渡さない。お前と歩調合わせる気なんかない。二人三脚なんてくそくらえだ。」

「恋はとっくの昔から僕の彼女で、恋人で、図々しいんだよ。今日まで僕はよく我慢した。お前に。」



 䄭風は聞こえる様に舌打ちした。



「新田さんの前でこけたくないから走るけど、足引っ張んなよ。」

「お前が引っ張るんだろ。ああ嫌だ嫌だ。体育祭もううんざり。」



 それから2人はむっつりした顔で黙った。

 伊鞠と桂香がカメラ席に来て、二人の写真を連続して色んな角度から何枚も撮ったので、順番が来る頃2人の苛立ちはピークに達していた。

 白線の後ろに下がって、二人の出番になると、二人は肩を組んだ。



「畜生」

「喋んなうぜえから」



 ピストルが鳴ると、果たして二人は猛スピードでグラウンドを駆け抜けた。

























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