幼なじみは狐の子。2
3茶道部入部





 朝のホームルーム前。
 恋と理央は昇降口の学校の掲示板の前に居た。

 掲示板にはでかでかと、体育祭の様子を報じる新聞が貼られていた。


 2ページ目の新聞の、一番大きく引き延ばされた写真には、苛立ちを隠せない宗介と䄭風の顔がデカデカと写っている。



『西中新聞部報道』

 晴天。体育祭。中学校生活の最高の思い出。
 青春には、いつでも甘酸っぱい1ページがある。
 今回、西中新聞部は、1年の二人三脚のイケメンペアに密着取材した。
 上野宗介(右)と樋山䄭風(左)。
 うーん、このルックス、匂い立つほどクール!。
 聞く所よるとこの二人、女の子を取り合ってるんだとか。
 新田恋(下)、結構かわいい女の子。
 新聞部はこの問題を放っておけない。
 新田さんについて、新聞部は彼氏(上野くん)に突撃取材した。

Q.いつから付き合ってるんですか?
A.やめてください。

Q.初恋ですか?
A.はい。でも関係ないでしょう。

Q.知り合ったきっかけは?
A.幼馴染で、生まれたときから知ってます。だから?。


 うーん、ガードが硬い。埒が明かない。
 樋山くんにも聞いてみたがしかし。


Q.片思いしてるんですか?
A.関係ないですよ。(ちょっと考えて)両思いです。

Q.新田さんの彼氏は上野くんだと言うけど上野くんに対しては?
A.嫌いです。別に。他に言う事はない。

Q.あなたはこの三角関係に勝算はある?
A.だから(迷惑そうに)やめてくださいって言ってるでしょう。聞いてどうするんですか、人の事茶化して。もう帰りますんで。


 どっちもどっちでかたーいガード。
 このままではいけない、と筆者は二人を知る人に緊急取材を行った。

 取材相手はR.Kさん。小等部から二人を見てきたという。Rさんは快く取材に応じてくれた。



Q.二人(上野くんと樋山くん)は仲が悪いの?
A.はい、とっても。なんでかっていうと三角関係だからだけど。私的には、そんなに嫌い合う事ないと思うな。


Q.二人は新田さんの事をどう呼んでる?
A.上野くんが呼び捨てで、樋山くんはさん付けですよ。


Q.二人(上野くんと新田さん)の馴れ初めについて知ってる?
A.ああ、(笑顔で)2人は幼なじみなんですよ。学校も一緒に来るし、いつも一緒に居ますよ。


Q.この三角関係はどうなると思う?
A.(考えて)分かんないけど、永遠に続きそう。上野くんは恋以外見えてないし、樋山くんはぞっこんだし。恋(新田さん)がふらついたら、あんなに一途な上野くんが可哀想だと思うな。あっでも樋山くんも応援してます。


Q.そういえば二人三脚してたけど、その時の様子は?
A.(笑いながら)ついでですね。ノーコメント。あの2人仲悪いので言えない。分かんないです。



「恋!」


 声がして振り向くと宗介が居た。

 怒り笑いで、宗介も新聞を眺めている。


「あの人達、二人三脚の報道してないよ。」


 恋が言った。



「だね。きっと三角関係が面白いんだ。ネタにされたね。」

「されたねで済むかよ。」



 理央の言葉に宗介が言うと、教室から䄭風が出てきた。

 3人の近くまで来てから、䄭風は自分の写真に気づいて眉をひそめる。



「何だよ、これ。」

「こんな風にされるなんて思わなかった。」



 宗介が言うと後ろから声がした。


「西中新聞部の一面記事、楽しんで貰えてるかしら?」


 振り向くと伊鞠がポーズを取って立っていた。
 隣に居た桂香が、カメラを取り出して、壁新聞の前に居る恋にシャッターを切った。


「……自分の写真を見る三角関係の頂点」


 桂香が呟いた。



「気分はどう?」

「最悪ですよ」



 伊鞠に向かって宗介が怒り笑いで言った。



「三角関係の報道って、あんたら何考えてんですか。学校で禁止すべきだろ。」

「私達はね」



 伊鞠が言葉を切った。



「注目される記事を書きたいのよ。それには美男美女のゴシップが一番。」

「最低」


 
 記事を目で追っていた䄭風が言った。



「これじゃあ僕達、学校中の晒し者じゃないか」

「スターと捉えなさい」



 伊鞠が言った。


「私達西中新聞部は決めた!。今年はこの三角関係を狙うと!。応援して頂戴」


 廊下をいく生徒がポーズ取った伊鞠にぎょっとして身を引いた。

 数名の物好きな生徒たちが立ち止まって伊鞠に拍手した。


「するかよばかたれ」

 
 宗介が怒り笑いで言った。


「僕の事はどうでもいいけど、加納先輩も石巻先輩も、新田さんに今後近づかないでくださいよ」

 
 記事を一通り読んだ䄭風が言った。



「当たり前。怪しげな先輩達に、僕の恋をネタにされてたまるか。迷惑だ。」

「僕の恋って言った!。ネタ発見!」



 パアァと顔を輝かせてガッツポーズした伊鞠にイラッとした表情の宗介。

 伊鞠が頼み込んだ。



「お願いお願いこの記事一番人気なのよう」

「僕はどうだっていいけど。笑いものになるのはごめんだ。ちょっとこの新聞剥がしますね。」



 䄭風が掲示板の画鋲を抜きながら言った。


「……辞めて」

 
 桂香が呟いてから䄭風を止めると見せかけてまた、䄭風に向かってシャッターを切った。











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