幼なじみは狐の子。2




 恋が学校に行くと、䄭風がもう教室に着いていた。
 䄭風は自分の席で、頬杖をついて、机の上にアルバムを広げていた。


「樋山くん」


 声をかけると䄭風は顔を上げた。



「新田さん、今日早いね。」

「たまたま早く起きたから、そのまま登校したんだ。樋山くん、何見てるの?」



 䄭風はアルバムを取ると、恋に渡した。

 アルバムの中には、空や緑の写真の他に、見るからに高級そうな室内が写っていた。

 ピアノのあるソファの置いてある部屋の写真を見ながら、䄭風が言った。



「うち。今度建て替えするから、昔の部屋になるけど。建て増しするんだ。」

「わあ。」



 アルバムの最後のページには、恋と䄭風がブランコで手を繋いでいる写真が収まっていた。


「その写真家に30枚くらいあるよ。焼き増しした。気に入ったから。前にあげたやつ、なくしたらまたあげるよ。」


 䄭風が言った。


「新しい家にも招待するよ。今はないけど、ピアノ室を作る予定なんだ。お手伝いさんたちも片付けやすくなる新しい家を喜んでて、みんな心待ちにしてる。うちお手伝いさん沢山居るんだ。」


 それから言った。



「そういや、うちにも、動物セラピーっていって専門家に来て貰って犬が居るんだけど、新田さん犬好き?」

「嫌いじゃないよ。」

「ふーん。ねえ、思いついたんだけど、動物セラピー、狐でできないかな。」

「狐で?」

「狐ってふわふわだしきれいだし可愛いから、懐きさえしてくれればとっても癒されると思うんだよね。なんていったって新田さんだしさ。」



 䄭風が笑った。



「ねえ、新田さんが狐になったところ、抱いてもいいでしょう?」

「樋山」



 と、䄭風の後ろから、今しがた荷物をロッカーに入れた宗介が現れた。

 宗介はしかめっ面を恋に向けてから、䄭風を睨んだ。



「言っとくけどお前に恋は抱かせないから。それは彼氏の僕の権利だ。」

「うざった。別にいいだろ、僕だってほぼ彼氏なんだし、少なくともお前と同程度の権利があるんだから、抱いたって。」

「お前に権利なんかねーよ。ひとつもない。狐になってる時に撫でると懐くんだ。お前にそうやってさせる訳にはいかない。」

「上野の言う事なんか聞いてたまるか。それなら新田さんに聞くよ。別に僕が撫でても嫌じゃないでしょう?。」



 宗介が言った。



「大体、お前は何なんだよ。振られた癖に。これ見よがしにアルバムなんか持ってきて。」

「写真は僕の趣味だ、関係ないだろ。お前じゃなくて新田さんと見るんだから。」

「恋に余計な物見せんな。自分の家の写真なんか撮ってきて、何がしたいんだよ。」

「うるさいな。僕の家が裕福なのを新田さんに見せるために決まってる。僕のアピールポイントだ。」



 恋は、困り顔でうーん、と唸った。

 宗介と䄭風が言い争いをするのは、恋にとって悩みの種だった。

 2人は寄ると触るといつも酷い言い合いをした。

 それは恋に対する一途さからくるものだったが、恋の方はといえば、自分がこの2人のどちらをより好いているか全然さっぱり分からない始末だった。



「とにかく、恋。樋山とは話すな。教室で話しかけられても無視すること。分かった?」

「そんな勝手が通用するか。新田さん。」



 しかめっ面の宗介に、恋は小声で、はい、と仕方なく返事した。











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