幼なじみは狐の子。2
宗介と行くことになったショッピングモールは隣町だった。
宗介と恋は、駅まで歩いていって、電車に乗った。
出発前の電車に乗り込んで座席に恋を座らせた宗介は、恋の前に立って、手摺を取った。
電車の中で宗介は喋らなかったので、恋は宗介を下から見上げて観察していた。
宗介の黒髪は今日もさらさらで乱れがなく、長いまつ毛はまっすぐで、伏し目になると真っ黒だ。
目が合った宗介は無言で恋の頭にてのひらを乗せた。
ショッピングモールは、近代的な大きい建物で、入って行くと涼しかった。
入口のロビーにはパラパラと人が居て、館内から外の景色を楽しんでいる様だった。
恋は、今日食べるアイスの事を考えていた。
家にもアイスは買ってあったが、今日のデートの事を考えて、恋は昨日から甘味を食べてこなかったのだ。
手を繋いで2人は並んだ雑貨屋に入った。
細々した物が並ぶ店内には、鉢植えの小さい観葉植物やポストカードが飾られている。
「女の子って雑貨が好きだよね」
恋が言った。
「いつも可愛い小物を集めてる。集めた小物は大事に取っておいて、時々引き出しを開けて見るの。」
「僕には良くわからない、それ。」
宗介が言った。
「使いもしない物を見た目だけでとっておくなんて、どうかしてる。それって変な癖だと思う。」
「可愛いっていうだけで、パワーを貰えるんだよ。元気になる。」
「別にいいけど。買いすぎないようにしなね、恋。どうせ全部は使わないんだから。」
恋はハートのついたお洒落な小さい貯金箱を見つけて、手に取った。
貯金箱はブリキで出来ていて、硬貨を入れるにはちょっと小さ過ぎる気がした。
恋が口を開いた。
「記憶に残そうとするんだけど。」
「は?」
宗介が腑に落ちない顔で聞き返した。
恋が言った。
「だから、宗介とのデートを。心にしまって、大事にするつもりで。」
「ああ」
「記憶ってさわれなくて、てのひらからこぼれ落ちちゃって、どうも掴めないんだよね。明日になってこの事を忘れちゃうのが、悔しいっていうか、嫌。忘れたくない。」
「……」
宗介は微かに首を傾げた。
恋の顔をまっすぐ見つめて、言葉を探している。
恋が言った。
「でね、それを忘れないように忘れないようにってすると、現実から浮いてる感じになって、ちょっと面白いんだ。その感覚の事宗介に話そうと思って。」
「……何それ。」
宗介は呆れ顔をした。
「アホくさ。オチが思ってたのと違う。そこが面白いで落ち着くあたりがお前だよな。」
「だって。」
「しょうもな。いい話かと思ったのに。やっぱり馬鹿なんだから。」
宗介は恋の頭に軽く触れた。
「良いよ、大丈夫。」
宗介が笑った。
「忘れたくないって思ってくれるのが嬉しい。お前が忘れても、僕は絶対忘れない。何度でも思い出させてあげるよ。」
ふと見ると店員がやってきて、ハートの貯金箱を並べ直している。