幼なじみは狐の子。2
社会のグループは調べものをする口実で学校のどの箇所にも移動できた。
グループごとに好きな場所に行ってレポートを始められるので、恋のグループは屋上に行くことにした。
「嬉しい、新田さんと同じグループで。」
「ありがとう、樋山くん。理央はDで、明日香はEだったんだ」
「社会の時間伸びてくんないかな。こういうグループだったら大歓迎。上野も居ないし。」
「宗介はAだった。離れちゃったんだ。代わりに樋山くんが居てくれたけど。」
ドアノブをカチャリ、と回すと、屋上は快晴で、青空が爽やかだった。
クラスメートたちには真面目に授業をする気が少しもなかった。
「先生居ないね。好きな事できる。じゃあ、各自、テーマを決めるため、ちょっと自由行動しようか。なんてったって屋上だし。」
「良いね。」
「賛成。」
恋と䄭風は屋上の縁まで来て、二人で街並みを眺めた。
グラウンドの向こうに民家の並び、その向こうに商店街が見える。
「新田さんと上野が付き合いだして約半年経つ。覚えてる?僕が告白した時のこと。」
ふと䄭風が聞いた。
「え、えーっと」
「覚えてないんでしょう。あんまりぼけっとしてたら、君のこと嫌いになるってあの時言ったよ。君は相変わらずぼけっとしてる。」
それから聞いた。
「ねえ、新田さん、上野の何が好き?」
「何がっていうか……」
「幼なじみ。二人は。それでしょう?。まったく腹ただしい。」
䄭風は塀を背中に寄りかかった。
「幼なじみっていうブランドの分だけ、僕が不利だ。そういう関係性ってそんなに大事だと思う?」
「いや……」
「子供だよ、そういうのに拘るの。君はどれだけ大切にされるかとか、どれだけ自分にとって有利かだけで考えた方が良い。もちろん、どれだけ真剣に想われてるかも含めてね。」
䄭風はそこで言葉を切った。
二人が無言になると、B班の残りの生徒達の話し声だけ風に乗って響いて聞こえた。
恋の目をまっすぐ見つめて、䄭風は口を開いた。
「なんで僕じゃないの?」
「……。」
「僕は上野なんかより新田さんを大事にしてあげられるし、大事に思ってるよ。いつも新田さんのことだけ考えてる。言われたいこと言ってあげるし、されたいことしてあげるよ。」
「樋山くん……」
「どうして僕じゃないの?。言って、僕だって。」
困り顔をした恋から目を逸らすと、䄭風はあっさり声の調子を変えた。
「ねえ、新田さん、今度、ショッピングモールにデートに行こうよ」
「えっ」
「二人で。お洒落して。試しに僕と付き合ってみてくれても良いでしょう?。」
「それは……」
『行ったらどうなるか分かってる?。』
恋の頭の中に、宗介の顔が現れて、大きくなった。
頭を抱えた恋が言い淀んで居ると、䄭風は屋上の床を見つめた。
ため息をつく。
「君と上野が付き合い出したって聞いて、僕、ちょっと泣いた。」
「!亅
恋は驚いた顔で䄭風を見た。
宗介は滅多な事では泣かなかった。
恋は、䄭風が泣くところが、一瞬、想像出来る様な気がした。
黙っていた䄭風は口を開いて重々しく言った。
「デートしてくれなきゃ、また僕は泣くことになる。」
「……」
「新田さん、お試しでいいから、お願い。僕と付き合ってよ。」
冷たい風が髪をさらって、青空へ戻っていった。