幼なじみは狐の子。2
テストのあった日のホームルーム後、恋は新しいメモ帳に時間割を書いていた。
「恋」
鞄を背負った宗介がやって来て、恋の前に立った。
「体育のジャージ。国語の資料集。持ち物もちゃんと書く事。忘れ物しても知らないよ」
「分かってる」
メモ帳を鞄に戻した恋は、ガラガラと戸を開けて、宗介と連れ立って教室を出た。
「今日のテストどうだった?」
窓の開いた廊下を、宗介は先に立って歩きながら、恋に聞いた。
「僕は全問解いて、見直しして後は休んでた。お試しのテストだし、そんなに深追いする気なかったから。」
「全然。解けなかった。」
「もう、しっかりしなよ。あの程度のテストでそれじゃあ、これから受けるテスト全部に落っこちちゃうだろ。」
階段を降りていくと、入口には小等部より一回り大きい靴入れが並んでいた。
昇降口には誰もいなかった。
「これからは、ちゃんと予習して、テストに備えること。予習復習が足りないの。毎日練習しさえすれば、誰でもできるんだから。当たり前だよ。」
「うーん……」
恋は靴を出しながら、難しい顔をした。
恋は、勉強が苦手だった。
それはやった事がない、というのもあったし、どうやっていいか分からない、と言うのもあった。
苦手意識は恋の頭から離れなかった。
よしこれからやろう、と思うには、勉強というものは敷居が高すぎる気がした。
「聞いてるの?。返事は?。」
恋は、靴を床に置いた。
「あーあ、嫌だなあ。自信あることなんにもなくて、うんざりする。」
ボソリ、と小さな声で恋が呟くと、宗介が振り返った。
「自分が嫌になる。テストは象徴的だよ。どうせこれから先も私はこのままなんだ。」
恋はため息をついた。
すると、ふいに、宗介が、手を伸ばして、恋の頭をぽん、と撫でた。
「大丈夫。」
宗介が言った。
「もしかして、僕がお前を見捨てるとでも思ってるの?」
「だって……」
何も言わずにふと黙った、自分を見つめる宗介の顔は、凛として涼しく、少しも不安がない。
「テストはテスト。学校の勉強ぐらいでそんなにしょげないの。お前には他に出来ることがいっぱいあるだろ。自信持てよ。」
「……」
「一つができなかったら、もう一つを探せばいいだろ。差し出された物に拘ることない。」
宗介は笑った。
「僕はお前が、何にもできなくても、お前の事大好きだよ。」
優しい声でそう言いながら宗介は靴をカタンと床に置いた。
「お前の事大事にして、守ってやるっていうのは、もしお前が何にもできなくても変わらないよ。」
宗介はそこで一旦言葉を切ると、声の調子を変えた。
「もっとも、あの程度のテストでできないんじゃ、駄目。初歩の初歩の簡単なテストなんだから。僕がみっちり教えてやるから、うちに来な。できるまでやる。最後までやり通す。分かった?」
「……」
「返事。」
恋はちょっと安心した顔をして、ありがとうと言った。