幼なじみは狐の子。2





 放課後。


「恋」


 時間割のメモ帳から恋が顔をあげると、鞄を背負った宗介が居た。



「宗介」

「放課後これから僕は委員会があるけど、お前はまっすぐ家に帰るように。ぐずぐず学校に残って誰かとちゃらついてたら怒るからね。」



 宗介は斜め前の席の䄭風にちらりと目をやり、恋を睨んだ。

 宗介のその声は、近くにいる䄭風にも余裕で聞こえてしまうはずだった。

 恋は、宗介がたまにやるこういう牽制を、ちょっと居心地悪く感じていた。



「分かった?。」

「分かった。」



 恋は仕方なく頷いてメモ帳をしまった。

 宗介が行ってしまうと、一気に静かになった。

 恋が鞄を背負って、席を立って教室から出ようと立ち上がると、その背中を、䄭風が呼び止めた。



「新田さん」

「樋山くん」



 䄭風の薄い色の瞳は、さっきまで宗介がそこに居たことなど全く意に介していない様だ。
 


「今日の六時間目、だるかったね。日差し暑くて。」

「うん、疲れたよね。」

「窓開ければ涼しいんだけど、先生、気づいてくれなかったね。」



 䄭風はこう切り出した。



「新田さん、来週の日曜日、学校のそばにある自然公園に遊びに行かない?」 

「えっ」



 恋は、困った顔で頭をかいた。



「宗介が駄目って言うから……」

「関係ないよ。そんなの。」

「約束しちゃってるし……」

「約束なんて。上野とでしょう。構うことないよ。新田さんは僕との新しい約束を気にしてくれるべきだよ。」

「……」

「断られたら、泣くよ?、僕。」



 そう言って笑った䄭風の笑顔は、どう見ても涙とは無縁だったが、恋は困った顔をした。



「えええ……」

「日曜の朝10時に。自然公園の門のオブジェの前で。来なかったら……」



 䄭風は言葉を切って、寂しげな表情を作った。



「すっごく悲しい。絶対来てよ、新田さん。」 

「でも……」

「でもはなし。約束したからね。」



 困り果てた顔をしている恋に、䄭風は話題を変えて、狐の恋の食べるキャットフードの話をし始めた。






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