幼なじみは狐の子。2





 自然公園には䄭風がもう着いていた。
 
 門から入ってすぐの変わった形の銀色のオブジェの前に立って、䄭風は恋の事を待っていた。



「樋山くん」

「あ、新田さん」


 
 恋が声を掛けると䄭風は笑って手を振った。



「今日涼しいね。どっから回ろうか。」

「自然公園は近いけどあんまり来ることなくて、よく知らない。」

「聞いた話によればこの公園って陸上部の練習コースなんだって。もしかしたら誰かと会うかもね。そうなったらどうする?」

「えええ……えーと私は……」



 䄭風が笑いながら恋の手を取ろうとした時だった。


 突然、白い大きな何かが勢いよく飛んできたと思ったら、恋と䄭風の間を掠めた。


 飛んできたのは鞄だった。


 振り返ると入口の門の影に、宗介が怖い顔をして立っていた。


「あ……」


 恋は驚きで声も出なかった。

 䄭風も目を見開いたが、䄭風の方はすぐに落ち着きを取り戻して軽く首を傾げた。


「何?」 


 䄭風が聞いた。


「お前は何なんだよ。僕の彼女に付きまとって。迷惑。本当。」 


 宗介が低い声で言った。


「お前の彼女?。笑わせんな。僕と新田さんはもう約束してるんだ。」


 䄭風が言った。

 宗介は恋の方を向いた。


「恋、お前は。約束破り。後で酷い目見るよ。その手。」


 宗介が言葉を切った。


「放せよさっさと!。」


 䄭風が言った。



「新田さんは上野より僕の方が好きだし、上野に無理矢理付き合わされて困ってる。早く別れろよ、お前たち。」 

「恋。」



 宗介が聞いた。



「お前は僕より樋山だって言いたいの?」

「私は、」



 恋はしどろもどろに言った。


「ど、どちらかといえば、」


 言いかけた恋は䄭風と目が合って言葉に詰まった。



「どちらかといえば?」

「ど、どっちも好きかなあなんて。」



 宗介が笑顔で首を傾げた。


「別れる。」


 きっぱりした声で宗介が宣言した。


「それなら、僕。お前とは。」


 恋は、突然振られた事がショックで、傷ついた顔をした。


「わ、私は、」


 恋は言いかけたが辞めた。


「……分かった。ありがとう、宗介、今まで。」


 そう言った瞬間、宗介の目が大きく見開かれたのに、恋は気付かなかった。







「あっそ。」







 宗介が歩き出した時、恋はてっきり打たれるのかと思って目を瞑ったが、宗介は恋の横をすり抜けてさっき投げた鞄を拾いに行っただけだった。

 宗介は鞄を拾うとくるり、と背を向けて、もと来た道を歩き出した。



「宗介」

「恋。お前、大嫌い。」



 恋は䄭風に言われるまで、呆然として口を利かなかった。










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