幼なじみは狐の子。2
宗介の言っていたステージはこの中学のシンボルで、校庭へ向かう広場の真ん中にあった。
吹奏楽部が演奏の時に使うこの舞台は、今日は午後の陽光を反射して、こぼれるように光を溢れさせている。
恋が校門から入っていくと、宗介は一段高いステージに寄りかかって立っていた。
「恋」
宗介が言った。
「話すの久しぶり。」
宗介は下を向いて続けた。
「で。」
で、の後をしばらく待っていると、宗介が顔を上げて恋を睨んだ。
「なんで止めないんだよ。」
宗介が言った。
「止める?」
「別れるって言って。なんで止めなかった?」
恋は思い出してああ、と呟いた。
「だって。」
恋が言った。
「宗介が別れたいのかと思って。」
恋が、宗介の返事を待っていると、宗介は恋に向き直りざま、恋の右頬をパチーンと思い切りひっぱたいた。
「……」
「僕が何だって?。」
宗介はニコ、と笑うと恋を見下ろした。
「なんで言葉の裏の意味を考えないんだよ。普通は考えんの、何を言おうとしてをそうかって。お前と居ると僕ばっか嫌な思いする。腹立つ。最低。」
「……」
宗介は続けて恋に言った。
「で。」
「……」
「それで、結局、僕は何を言おうとした?」
「……」
恋は、俯いて考えた。
(宗介の言おうとした事。)
「……お前が好き、と浮気すんなだろ!」
すぐに宗介が言って、今度は恋の胸ぐら掴んで顔を寄せた。
「本当に腹立つ。人の気も知らないで調子こいて、あげく樋山と付き合いかけて。僕がその間どういう気持ちだったか分かる?。」
苛立った声で言った後、恋の服を離し、ハア、とため息をつく。
「駒井に聞いた。」
宗介がステージに座りながら言った。
「泣くって何?。意味分かんない。恋、お前も、そんなのに騙されないの。どうせムードを盛り上げるための嘘なんだから。」
恋は、理央に相談して良かった、と心から思った。
「お前といない間、お前のことばっかり考えてた。いつもなら僕と居るのに。どうしてるかなって。」
宗介が言った。
「仕置きに無視してたんだけどぜーんぜん響かない。馬鹿を見る、僕の方が。ほんと独り相撲。なんだか歳とった気がする。」
「……」
「割に合わない。樋山の何がお前にそんなに大事?。僕より大事なの?。僕は恋の事だけこんなに思ってるのに。」
「宗介」
「恋、」
宗介が言葉を切った。
「お前が好き。考え事全部持ってかれるほど。お前なしじゃ居られない位。」
「……宗介。」
「恋、これからもう二度と浮気しないね?。誓える?僕と約束できるよな?」
「うん」
それから宗介は、屈んで緑のステージで恋にキスした。
「お前さえいれば、何も要らない。」
澄んだ涼しい風が吹き渡り、恋は2人を祝福された様な気がした。