『逆、猫吸い譚 ~雄の三毛猫、三条国芳は今日もすず子の匂いを吸う~ 』
「……分かりました」
三角の耳を心配そうに少し横にへたらせていた人の予めの謝罪を受け入れてみたけれど私は今、初めて――人の形とは少し違っている国芳さんの熱を見てしまった。
私も人間の男性のそれを知っているし、その形と凄く違う訳じゃ無いけれどいつもそれが私の中に入っていたのだとしたら……でも、傷つけないようにしてくれているのはよく分かっている。
以前、国芳さんが終わった後に固まってしまったのはその変化が中途半端に解けた自身の形を見たせいだったのかもしれない。
きっと初めは普通に、人間の男性と変わらなかったのだろうけど、終わった頃には今みたいになってしまっていた、とか。
向かい合うように抱き合い、私の湿気た背中を擦ってくれる優しさに甘えてしまう。
「乱暴な真似はしない。ただ……あまりお前も我慢をするな。体が強張って、無駄に体力を消費している。たまには俺に任せて気を緩めてくれないか」
それは気遣いの提案だった。
人の私とそうではない国芳さんだから、愛情を交わす時はそう……私もずっと、どこか気を張っていた。必要以上に相手の事を考えすぎていたのかもしれない。
そこまでしなくても大丈夫だ、と国芳さんは言ってくれているようだった。
「今日は何も考えず……俺に全て、委ねてくれ」
頷く私の背中を撫でてくれる。すりすり、と猫を撫でる時の手つきだったけれど私はそのまま彼の肩口に顔をうずめ、いつもより際立っている華やかな匂いを吸い込んだ。