『逆、猫吸い譚 ~雄の三毛猫、三条国芳は今日もすず子の匂いを吸う~ 』
互いを慈しむように重なった体。
今日は国芳さんに全て、身を任せていた結果――私は動けなくなってしまっていた。先に謝られた意味が身をもって分かってしまったけれどまさに後の祭り。
「きらい」
「本当に済まなかった……」
体がぜんぜん、動かない。
まさにふにゃふにゃ、くたくたの体。
朝になっても布団から出られない私と一晩中謝っていた人。
初めて夜を明かした時と同じように、足腰がまるで立たなくなっている私に「あれだけ発散したからか、匂いが元に戻っている」と胡坐をかいて隣に座った国芳さんは言う。謝罪の言葉を口では言っていながら、私の唇には皮を剥いた大きな葡萄の果肉を挿し入れて、ついでに指まで舐めさせようとしたので私はその指先を噛む。
「まだ、ひりひりするんです」
「すまない」
「背中も、痛いです」
どうやら私の体中、筋肉痛が起きているようだった。
ここは神域、痛みやそれに伴う苦痛は時間と共に次第になくなるとは言っても……昨夜、本気で噛まれた記憶のせいで全身、痛い気がしてならない。
「お披露目の日のあとまでしない、と」
「約束する」
「匂いを吸うのは、良いですけど……」
「分かった」
絶対ですよ、と念を押す。
「まあ、もうこれも無いしな」
使い切って、中身が空っぽの小さな木箱の存在に顔に火が付いたように熱が上がる。確かにそれの枚数は私も把握していたけれどわざわざ見せなくたっていいのに、まったくこの人は。
それから国芳さんの部屋は本人の手によって早朝から戸と言う戸が開けられ、几帳の中で寝そべっている私は全く起きられる状態ではなく、ぽっと頬を赤らめてやってきたたまちゃんにまたしても醜態を晒してしまうのだった。