『逆、猫吸い譚 ~雄の三毛猫、三条国芳は今日もすず子の匂いを吸う~ 』
その日の夜、あれからずっと私は国芳さんの部屋にお邪魔をして、お風呂も済ませていた。仕事を終えた国芳さんも今、お風呂から上がってきたところ。
「五兄弟以外の他の猫さんたちを初めて見たのですが皆さん、とても人懐っこいんですね」
「ああ……茶白が来ていたと黒から聞いたが体の大きさと同じく、図々しい奴だろう」
「真っ直ぐにのしのし歩いて来たと思ったら一番に私の膝に乗って来たのでびっくりしちゃって」
そのまま私の膝の上を気に入ってくれたのかどっしりと腰を落ち着かせてしまった茶白さん。小さくて軽いたまちゃんしか乗せた事のなかった私はその重みに耐えきれず足を痺れさせてしまって、と昼間の様子を国芳さんに伝えるとおかしそうに笑っていた。
「まあ、奴らに害はない。お前の持つ甘い匂いと神の気配が混ざって心地よかったんだろう」
「四匹ともあっという間に寝ちゃっ……」
近い場所に膝をついた国芳さんにぐい、と肩を押されて敷布団の上に仰向けに倒される。
「俺の匂いも付けている筈なんだがな」
重くのしかかって私の首筋に顔をうずめながら「これだけではやはり足りないのか」と国芳さんはぼやく。
私と国芳さんを隔てる物が無い今、どうすることもできない――訳でもないんだけどな、と国芳さんに抱き締められながら思う。
「国芳さん、聞いてもらえますか」
わしわし、とお風呂上りの国芳さんの癖っ毛に指を通す。
「人は、その……恋人同士やご夫婦それぞれではあるんですが」
私が話し出す内容が肌を重ねる営みについてだと悟った国芳さんが黙って耳を傾けてくれる。そう言う所はとても真面目な人。
国芳さんの本能に倣って後ろからしても大丈夫ですよ、と伝えた時のように私は人と人の営みに、子孫繁栄以外の戯れもする事があるのだと教える。
私の体の中に押し入らなくても、同じように愛情を交わし合えるのだと言葉にして伝える。
戸惑っている国芳さんにすりすり、と頬をすり寄せればぐ、と息を飲んだようだった。
「待て、すず子……」
そのままよいしょ、と国芳さんと上下を入れ替えて私が上になろうとすると上半身を起こしてしまった。
「本当に、大丈夫なのか」
「いつも私ばかり優しくして貰っているのと、私からもちょっと国芳さんに悪戯をしたい気持ちがあったりして」
ふふ、と笑ってしまえば後ろ手に手をついていた国芳さんが「積極的なお前も嫌いじゃないが」と観念してくれる。
「言ってみたものの、実はそう言うの……したことないんですけどね……」
告白をする私の頬はきっと真っ赤。
それでも、国芳さんにならしてもいいかな、と思ったから。