『逆、猫吸い譚 ~雄の三毛猫、三条国芳は今日もすず子の匂いを吸う~ 』
どんな感じなのかな、と足を投げ出すように座ってくれているので私はその間に座らせてもらって……男性はどういったところに触れたらいいのか、名実ともに“手探り”状態だった。
気持ちが落ち着いている時の国芳さんは限りなく人の姿に変化出来ているそう。私が国芳さんの下半身を初めて見てしまった時もやっぱり興奮していて、少し変化が解けてしまっていたらしいけれど今夜の国芳さんの熱は人間の男性と変わらない見た目をしていたのでまだ、心に余裕があるのかもしれない。
普段だったら受け入れるばかりの私。噛んでも構わないと差し出すように許していた首筋を今夜は私から、と国芳さんの首もとにそっと歯を立ててみれば身震いがひとつと……ぐ、と大きなてが私の手首を掴む。
私がされている時、私が同じように国芳さんの手や腕を掴んでもやめてくれないのが大半なので私もそのまま続けてはいたけれどいい加減手を離し、肩で息をしている国芳さんに私はもう一つ、提案をする。
中に押し入らなくても愛を交わす方法があるんです、と。
本当は伝えるのも、手で直接国芳さんの熱に触れるのだって恥ずかしくてたまらないのを堪えて言葉にする私に三角の耳を横にへたらせて「お前は俺を甘やかし過ぎだ」と言う。
だって国芳さん、いつも私に優しいから。
我慢させすぎても、良くないだろうし。
そう言った事だって、私は国芳さんなら許せるのだとちゃんと伝わっただろうか。愛情を受け入れるばかりでどうやって私から返せるのかを最近、よく考えていた。
他にも手段はあるだろうけど、今はこのまま――私はあなたを愛したいのだと私の方から唇を寄せる。
寝間着を脱がされてしまえばいつもと変わりなく。
ただ今日はちょっとだけいつもと違う事をしている。
体と体が繋がる事の無い日。受け入れる私が痛くならないようにしなくていい日だからか……国芳さんは私の胸元を熱心に捏ねていた。
黙って真剣に、仰向けになっているせいで流れてしまっている胸を脇から掬い上げるように手にしている姿はやっぱり猫さん、と思ってしまう。
ご機嫌な癖っ毛のしっぽは私の膝を撫でて、耳は時々ぴくりと動く。
私はなんだか、とても幸せだった。
国芳さんの事が堪らなく愛しくて、涙が滲んでしまう。
それを悟られないように私の胸元に頭を落としていた国芳さんの三角の耳の先に触れ、優しく摘まんだり撫でたりする。そんな激しさのない淡い戯れが心地よくて、幸せで、胸がいっぱいになる。
すん、と少し鼻を啜ってしまったら顔を上げた国芳さんと目が合い、涙がひとすじ、流れ落ちてゆく。
あの素敵な花嫁衣装を見た時からどうにも涙腺が弱くなってしまっているのか、国芳さんは驚いた表情をしたけれどすぐに仕方なさそうに笑ってくれて、涙を拭ってくれた。
「すず子」
ふわ、と優しく額を撫でてくれる。
私は感情表現が豊かな三角の耳やしっぽを備えていないけれど――名前を呼んでくれる国芳さんの声はいつでも優しく、その匂いは華やかで……私の心を切なくさせてくれるから応えるようにその手にすりすりと猫の仕草で甘える。
色々としたあとの最後には、まるで食べられてしまいそうな口づけを……酸欠により意識が白んで、私はぐったりと、動けなくなっていた。そんな私の姿に見開いた深緑の瞳が釘づけになっていたのを私は知っている。
「すず子、すまない」
「もう……あなたはいつも最後には謝ってばかりで」
私は啼かされてばかりで。
大丈夫ですよ、と言ってもしょげている。
「やはり暫く控える」
「本当に?」
見上げて、じっと見つめる私に視線を泳がせている姿すら愛しくて、そしてなんだかおかしくて。
私たちは夫婦なんですからあまり我慢をしないで、と言葉を投げかければ少し迷ったような、しっぽと耳をぴくぴくとせわしなく動かしながらも頷く愛しい人を私はぎゅ、と抱き締める。これが私のあなたへの愛情です、と言わんばかりに。