『逆、猫吸い譚 ~雄の三毛猫、三条国芳は今日もすず子の匂いを吸う~ 』


 私は国芳さんの手が好き。
 そして国芳さんも私の手が好きなようで……今夜の私たちはそれぞれの手を、指先を絡め、静かに交わり合っていた。
 癖っ毛が少し揺れるくらい、私も少し肩を竦めるくらい。

 またたびのお酒で体がぽかぽかしているのか、はたまた二人でこうしているから温かいのか。
 強く交われば熱くなるけれどこうしてゆっくりするのも私は好きだった。

 優しくしてくれる人に私も返すように首元に額を押し付けるとふ、と笑って頬を寄せてくれるのが好き。
 そうしていると、お腹の所がじわじわと……不思議な感覚を覚える。夫婦としての純粋な欲に疼くのも心地いい。

「すず子、寝るなよ」
「そんな、ふふっ……でも、それくらい気持ちいいです」

 私の言葉にちょっと反応している国芳さんもきっと私と同じ気分なのかもしれない。気持ちよさと心地よさが一緒に混ざって、ふわふわとした不思議な気分になっている。

 するとふさ、と柔らかい毛の質感を太ももに感じた。

「ん……っ」

 国芳さんの持つ中毛癖っ毛のしっぽが私の足を撫でてくれる……と言うか、私がそれに“弱い”のをちゃんと覚えていた。私は彼の猫の毛並も好きだけれど今、それをされてしまうとお腹がきゅ、となってしまう。
 切なさが伝わってしまったらしく悪戯に、ふさふさと撫でられ続けてしまう。

「あなたはすぐ、そう言うことを……するんですから……っ」
「俺の癖毛は妻のお気に入りだからな」

 素のままの足を撫でる柔らかい癖っ毛の質感に感じてしまう。

「ッ、すず子お前、それは……やめ、ろ」

 私だって、とお返しにぐっとお腹に力を入れれば苦しそうにする国芳さんがいる。ただ、緩めた途端に国芳さんにした快楽が全部私に返って来てしまって体が震えてしまった。

「全くお前は……無理をするな」

 仕方なさそうな表情に合わせて耳も少し横になる。
 きっと私、今ならもう国芳さんのお顔を見なくても耳の仕草だけでどんな感情なのか分かるかもしれない。

「すず子、苦しくは無いか」

 頷けば安心したようにまた国芳さんは私に愛情を与えてくれる。もたらされる切なくなる程の気持ちよさに二人で言葉も無く没頭する。
 国芳さんの低くて甘い吐息が荒くなってくる頃には私ももう駄目、と絶え間なく翻弄されていた。

「すまない……すず子」

 謝らなくたっていいのに。

「お前を前にすると、抑えが、利かない」

 いいんじゃないですか、今日くらい。
 そう伝えたいのに口元が上手く動かないから、と国芳さんの腕を掴んで私の胸元に手を当てて欲しいと誘導する。多分、国芳さんは意図的にしか心を読まない。自らが読もうと思わない限り、心は覗かない。

「すず子……」

 私のして欲しい事が分かったらしく、国芳さんはそのままするりと私の胸から輪郭に手を滑らせて額を撫でてくれた。

「愛している」

 喉から振り絞ったような国芳さんの声に私は体ぎゅっと縮ませてしまった。
 ぐ、と呻いた国芳さんに私は愛することをやめないで欲しいと欲深くねだれば互いに強く体を震わせてしまった。

 ひゅう、ひゅう、と整わない呼吸に大きく胸を上下させていれば国芳さんが抱き寄せてくれる。
 ごろんと私を抱いて頭に頬ずりをする国芳さんがあまりにもすりすりしてくれると言うか……まるで匂いを染みつかせているような気がした。

「これが本当の毛繕いですね……ふふ、くすぐったい」

 私の言葉にご機嫌そうな人。

「お前と番になれて本当に良かった」
「危うく、嫌われちゃいそうになってましたからね」
「ああ、そうだな。だが今はもう……美しく、可愛い俺だけの番だ」

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