クラックが導いた、追想の宝石店。
 少し長めの黒髪をなでつけるようにセットし、一部だけ銀色にした前髪を垂らしている。
 柳の葉ように形の良い眉に、少したれ気味の茶色の目。通った鼻筋に、薄い唇は一見優しげに笑みの形を作っていた。
 綺麗な顔立ちだし細身で弱そうにも見えるけれど、ワイシャツにベスト、スラックスという服装の彼は体幹が良いのか真っ直ぐ綺麗な姿勢で立っている。

 私と目が合った彼は、おや? と不思議そうな顔をした。

「珍しい、若いお客さんだね」
「あ、その……」

 宝石を売っている店なのだから、それなりにお金を持っている大人が来る場所なんだろう。
 初対面の彼が明らかに学生である私を不思議がるのも理解出来た。

 とはいえ、どうするべきか。
 商品を見に来たわけでもない、狭い店内をぐるりと見回してもお目当ての店主はいない。
 かといって、店員らしい男性と目が合ったのになにも言わずに出て行くのも気が引けた。

「えっと……店主のおじいさんはいますか?」

 結果、一番の目的を遂行することを選ぶ。

「店主は俺だけど……おじいさんってことは俺の祖父かな? 三年前までいたから」

 客ではなさそうだと思ったのか、店主を名乗った男性は幾分砕けた口調で話してくれた。
 前もおじいさん一人しか店にはいなかったし、彼が店主である可能性はなんとなく察していた。でもまさか孫だったとは。

「今は代替わりして俺が店主をしているんだ。じいちゃんは隠居してるからここにはもう来ていないよ」
「そう、ですか……」

 男性の答えに私は気落ちする。あの優しいおじいさんとはもう会えないのか……って。
 不義理をしたままになってしまったな、と後悔のため息が漏れた。
 ため息と一緒にその後悔をはき出して、息を吸いながら切り替える。
< 4 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop