ぼくらは群青を探している
 どうやら二人は仲良しらしく、式が始まるまで、そして式が始まった後もずっと何かを話していた。式の間中お喋りをしているのはその二人だけではなく、彼らを筆頭とする不良達のせいで、入学式は式どころの騒ぎではなかった。開始してものの数分で飽きてしまった彼らは、まるで運動会と勘違いしているかのように騒ぎ出し、でも教師陣はそんな有様になにも言わず……。とんだ悲惨(ひさん)な式だ。


「《続きまして、新入生代表挨拶。新入生代表、三国(みくに)英凜(えり)》」


 ただ、諦めるのは勝手だけれど、この不良達の前に立たされる私の身にもなってほしい。


「……はい」


 ゆっくりと返事をすれば、少し騒ぎの種類が変わった気がした。どよめきの中に「普通科じゃない?」「間違いじゃないの」「でも三国さんでしょ」「願書間違えたんじゃない」と少しの噂話も聞こえた。お陰で、ほんの少し緊張した。

 きっと、挨拶は棒読みになってしまったと思う。原稿を読むだけだと言い聞かせ続けていたとはいえ、本当に原稿を読むだけとなった。みんなが何を感じているかなんて分かるはずもないのに、壇上から席に戻るときには、まるで好奇(こうき)の目にでも(さら)されているような気がした。


「三国、お疲れ」


 ……それなのに、席に戻った途端、雲雀くんから(いた)わりの言葉をかけられた。当然面食らったのに、桜井くんまで重ねて「すげーな、代表なんてかっこいいな!」と妙に緊張感のない感想をくれるものだから、もうなにがなんだか分からない。


「……ありがとう」


 ただ、お陰で壇上から降りたときの冷や汗は引いていた。

 入学式は、終始そんな調子だった。もう後半になると新入生の私でさえ「ああ、こんなもんなんだな」と慣れてきてしまった。これはいわば、今後不良たちと共生する高校生活の登竜門(とうりゅうもん)だったのだ。そう考えると、少し気持ちも楽になった。


「なあ、三国」


 式が終わった後、一組から順番に教室へと誘導されるのを待っている間、雲雀くんがこちらを向いて話しかけてきた。 が、式が終わった途端、雲雀くんは話しかけてきた。ギョッと硬直した私に気付いているのかいないのか、横柄(おうへい)な態度で椅子に座ったまま「そんな(おび)えんなよ、とって食いやしねーよ」と。最初に声を聞いたときからなんとなく感じていたのだけれど、雲雀くんの声は静かで落ち着いている。ただ、それは隣の桜井くんの声の抑揚が山あり谷ありなのと対比してしまうせいもあるかもしれない。


「……なに?」

「いや、正直、俺マジで一番で入れるって自信あったから。すげーなあって思って。どこ中?」


 不良って本当に「お前どこ中だよ」って聞くんだ……。一般にイメージするのとは少し違う趣旨を含んでいるかもしれないけど。


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