ぼくらは群青を探している
「すげー失礼! だって俺、じいちゃんと二人で生活してたんだよ」桜井くんは得意げな笑みで「オシャレ飯とかは作れないけど、休みの昼飯くらい作れるよ」


 ものすごく意外だった。私が分類した桜井くんは「飯? 焼肉のたれかけて米の上に乗せれば全部うまい!」なんて親指を立ててみせるタイプだった。雲雀くんなら手早く器用に適当に食事を作ってもおかしくないけど。


「……じゃあ、汁物を桜井くんに任せます」

「ほーい」


 結果、何を指示したわけでもなかったのに、私の作る中華炒めに合わせて中華スープを作ってくれた。特段難しいものではないけれど、シンプルにメインに合う。台所テーブルで向かい合って、桜井くん作のスープを飲みながら感心した。


「すごい、ちゃんとおいしい」

「本当に三国、俺のことなんだと思ってんの?」

「クールに(そつ)なくなんでもこなす雲雀くんの隣でわちゃわちゃしてる子みたいな……」

「ひどくない? つか三国の飯うま」

「どうも」


 台所のダイニングテーブルで桜井くんと向かい合ってお昼ご飯を食べている――ふとその光景を俯瞰してしまって、笑いが零れた。なんで私、うちで桜井くんと一緒にご飯を食べてるんだろう。


「なに? なんで笑うの?」

「……なんか、なんで私、桜井くんとお昼食べてるんだろうと思って」

「あーね。謎だよね。俺も三国と三国ン()で昼飯食うことになるなんて思わなかった」


 いつも見慣れた台所を背景に、桜井くんが座っている。いつもならそこにはおばあちゃんが座っているのに。

 まるで合成写真のように違和感がある光景なのに、まるで日常風景のように違和感のない光景だった。


「三国っていつもばあちゃんと飯食ってんの」

「うん。今日は友達と出かけて行ったけどね、普段は私が学校に行ってる間に友達と遊んでるみたい」

「なんか充実してんね、三国のばあちゃん」

「そうなんだよね。多分どこの八十歳よりも充実した生活をしてると思う」

「つか、あれで八十歳なんだもんな。若いよね、髪まだグレーじゃん?」

「まあ。七十歳くらいに見られるっぽい」

「つかチャリ乗るのやばくない?」

「本当に、やめてほしいってずっと言ってるんだけどね」

「またカツアゲされちゃう」

「本当、助かった。ありがと」

「ま、でも三国のばーちゃんなら財布盗られて済んだ……って言っちゃいけないのかもしんないけどさ、どっちにしろ怪我とかすることにはならなかったんじゃない」

「んー、まあ、そっか」

「転んだだけで骨折とかするじゃん、年寄りは」

「おばあちゃん、骨強いから。去年、転んで(えん)(せき)(すね)をぶつけたんだけど、ヒビが入っただけで済んだの。骨年齢が二十代って言われたって喜んでた」

「すごい、化け物じゃん」


 あ、なんか楽しい――。ゲラゲラ笑う桜井くんを見ていると、ふとそんな感情が降ってきた。感情が降ってくるなんて表現はおかしいかもしれないけれど、本当にただ降ってきた。なにより、楽だ。頭を使わずに喋れる。


「桜井くんって、休みの日は雲雀くんと遊んでないの」

「いや、遊んでるよ。ほらゴールデンウィークとか」

「あ、そっか。今日は?」

「バイト始めちゃったから。とりあえず帰って寝て、その後――……あっ」


 桜井くんはハッと止まった。その後雲雀くんに連絡することになっていた、とか?


< 100 / 522 >

この作品をシェア

pagetop