ぼくらは群青を探している
「よっぽど(ディープ・)(スカーレット)のトップ――山崎(やまざき)って名前だったかな、山崎に気に入られてるなら別だけどさ、一年が喧嘩売りに行って尻拭(しりぬぐ)いしてくれるような人じゃないよお、つかそんなこと誰もしないよ」

「……そういえば蛍さんくらいだって言ってたっけ」

「まあ。でもって、俺らはどこのチームにも入ってないからさ、尻拭いつってもちょっと違うんだよね。チームに喧嘩売るんだったら『この間はうちの一年がごめんねー』じゃ済まないじゃん?」


 まあ、それはそうか……。入学式の一件も、桜井くん達が単体で喧嘩を売られただけであって、私は巻き込まれていないし……。


「だからまあ……蛍さんが三国を(ブルー・)(フロック)のメンツに誘ってくれたのは、ありがたかったかな。そうすれば新庄が三国に手出しにくくなるし、手出されたときに(ブルー・)(フロック)で助けやすいし……」


 そう考えると、蛍さんが私を(ブルー・)(フロック)に誘ったのは妙だった。蛍さんは口酸っぱく、自分に得のないことはしないかのようなことを言い続けた。私を(ブルー・)(フロック)に入れて何の得があるのだろう。


「……不良チームに女の子がいることって、何か意味あるの?」

「意味? いやないんじゃない? レディースの暴走族じゃあるまいし、女子がいる意味なんてないって」

「……じゃあ私はなんで(ブルー・)(フロック)に誘われたんだろ」

「さあー。舜が言ってたじゃん、蛍さんの死んだ姉貴に三国が似てんじゃないのって。それなんじゃない?」

「……そんな理由で誘うかな」


 いくら(ブルー・)(フロック)のあらゆる決定権限が蛍さんにあると言ったって、そんな理由で誘うだろうか……。もしそうだとしたら相当似ているはずだけれど、少なくとも私と蛍さんの顔は当然のことながらちっとも似ていない。誰が見たって他人だ。


「あ、てかやば、侑生にメールするんだった」

「……もう一時だけど、大丈夫?」

「……電話借りていい?」

「もちろん」


 桜井くんは居間の固定電話から雲雀くんを呼びだす。待っていたのか、たった二、三回のコール音の後「《おい昴夜、お前どこいんの》」と雲雀くんの苛立った声が聞こえてきた。桜井くんは見るからに焦って「あー、えっとねー、家にいない」「《見りゃ分かるそんなの》」私に視線を寄越す。


「……えっと、色々あって三国の家」

「《は?》」


 雲雀くんの声は呆気に取られていた、というよりは怒気を孕んでいるように聞こえた。


「《色々ってなんだ? また新庄か?》」

「あー、違う違う! 全然関係ない! でも話すと長い!」


 カツアゲされてるお年寄りを助けたらそれが私のおばあちゃんだった、とたった一言説明すれば済む気はしたけど「《とりあえず、お前は家にいないし、三国にもなんもねーってことでいいな》」雲雀くんも桜井くんにそんな要領のいい説明は期待していないのだろう。


「うん、それでおっけー。あ、あと明日もバイトあるけど昼はいる」

「《聞いてねーよ。早くケータイ買えよな、じゃ》」


 逆に、雲雀くんは要件さえ伝わればいいとばかりに電話を切った。桜井くんは受話器を持ったまま眉間に皺を寄せる。


「……なんだよ、うちに来るほど俺に会いたかったくせに、素っ気ないヤツ」

「意外と照れ屋だよね、雲雀くん」

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