ぼくらは群青を探している
「あー、そうそう。アイツかっこつけだからね、そういうとこある」受話器を置きながら「つか三国の家にいるつっても何も言われなかったなあ。怒られるかなって思ったんだけど」
「さっきも言ってたけど、なんでうちにいたら雲雀くんが怒るの?」
「誰かに見られたら、三国って俺と仲良いんだなってなっちゃうじゃん」
「……もうなってるから新庄は私を拉致したのでは?」
桜井くんがハッとした顔をした。桜井くんは愛すべきおバカだ。
「ていうか、雲雀くんと遊ぶ約束……とまで言わなくても、なんとなく遊ぼうかみたいに言ってたんでしょ? うちに呼べばよかったのに」
「……確かに。まあでも、三国のばーちゃんも頭が銀ギラのヤツが来たら腰抜かすじゃん。いーよいーよ、アイツは」
自分も金髪のくせに、こんなにも華麗な棚上げは初めて見た。いや、桜井くんはハーフだけど。いやそれでも地毛は金ではないけど。
「つか昼の片づけしないと」
「いいよ別に、置いてて」
「さすがに飯食わせてもらって片付けしないほど非常識じゃないよ、俺」
でも私も桜井くんとご飯食べるの楽しかったし、ギブアンドテイクは成立してるよ――と口にしようとして、なんだか照れ臭かったのでやめた。
食器を洗うと、桜井くんは「なんか三国のばーちゃん帰ってきたら晩飯まで世話になりそうだから帰る」と帰り支度をし始めてしまった。
「別に、いいのに。おばあちゃんもにぎやかなほうがいいだろうし」
「そんなこと言ったらマジで来るよ、俺」
「え、だから別にいいよ。しいて言うならスーパーに一緒に行ってくれると助かるけど」
桜井くんを養うわけでもあるまいし、家計にはそんなに響かないはずだ。せいぜいおばあちゃんに買い物の負担をさせるのが悪いくらいなので、それさえ省ければ問題はない。
そんなことだけを考えて口にしたのだけれど、桜井くんは何度かその長い睫毛を上下させ、子供っぽく笑った。
「んじゃまた来る。誰かと飯食うほうがいいし」
……そういえば、桜井くんはいま一人暮らしだっけ。
「……うん、私も桜井くんが来てくれたほうが楽しい」
どうせ、桜井くん達と関わらないなんてできないし。おばあちゃんも気に入ったみたいだし、うちに出入りしてたって何の問題もない。
だから変なことを言ったつもりはなかったのだけれど、桜井くんはちょっとだけ閉口した。
「……いま私、変なこと言った?」
「……三国、もっと笑えばいいのにさ」
ほんの少し、ドキリとした。表情に乏しいことはバレているだろうとは思っていたけど、そこからそれに結び付けられるのは怖かった。
私が黙りこんでしまったのを、桜井くんはどう思ったのかは分からなかった。ただ桜井くんはいたずらっぽく口角を吊り上げる。
「じゃね。明日、侑生に三国の飯美味かったって自慢しとく!」
「え、あ……」
いつもおばあちゃんが出ていくのばかりを見ているせいか、桜井くんが出ていく足取りは妙に軽く見えた。
その背中を見送ろうと顔を出すと、桜井くんは自転車に乗って「また月曜ねー」と私がろくに返事もしないうちに走り去ってしまった。
何を食べるでもないのに、台所に戻って、いつもの席に座った。向かい側は当然空っぽだ。
さっきまで、ここに桜井くんがいた。目を閉じるまでもなく、その光景は脳裏に焼き付いていた。
『これなに?』
『……小松菜と鶏むね肉を豆板醤で炒めたもの。名前はない』
「さっきも言ってたけど、なんでうちにいたら雲雀くんが怒るの?」
「誰かに見られたら、三国って俺と仲良いんだなってなっちゃうじゃん」
「……もうなってるから新庄は私を拉致したのでは?」
桜井くんがハッとした顔をした。桜井くんは愛すべきおバカだ。
「ていうか、雲雀くんと遊ぶ約束……とまで言わなくても、なんとなく遊ぼうかみたいに言ってたんでしょ? うちに呼べばよかったのに」
「……確かに。まあでも、三国のばーちゃんも頭が銀ギラのヤツが来たら腰抜かすじゃん。いーよいーよ、アイツは」
自分も金髪のくせに、こんなにも華麗な棚上げは初めて見た。いや、桜井くんはハーフだけど。いやそれでも地毛は金ではないけど。
「つか昼の片づけしないと」
「いいよ別に、置いてて」
「さすがに飯食わせてもらって片付けしないほど非常識じゃないよ、俺」
でも私も桜井くんとご飯食べるの楽しかったし、ギブアンドテイクは成立してるよ――と口にしようとして、なんだか照れ臭かったのでやめた。
食器を洗うと、桜井くんは「なんか三国のばーちゃん帰ってきたら晩飯まで世話になりそうだから帰る」と帰り支度をし始めてしまった。
「別に、いいのに。おばあちゃんもにぎやかなほうがいいだろうし」
「そんなこと言ったらマジで来るよ、俺」
「え、だから別にいいよ。しいて言うならスーパーに一緒に行ってくれると助かるけど」
桜井くんを養うわけでもあるまいし、家計にはそんなに響かないはずだ。せいぜいおばあちゃんに買い物の負担をさせるのが悪いくらいなので、それさえ省ければ問題はない。
そんなことだけを考えて口にしたのだけれど、桜井くんは何度かその長い睫毛を上下させ、子供っぽく笑った。
「んじゃまた来る。誰かと飯食うほうがいいし」
……そういえば、桜井くんはいま一人暮らしだっけ。
「……うん、私も桜井くんが来てくれたほうが楽しい」
どうせ、桜井くん達と関わらないなんてできないし。おばあちゃんも気に入ったみたいだし、うちに出入りしてたって何の問題もない。
だから変なことを言ったつもりはなかったのだけれど、桜井くんはちょっとだけ閉口した。
「……いま私、変なこと言った?」
「……三国、もっと笑えばいいのにさ」
ほんの少し、ドキリとした。表情に乏しいことはバレているだろうとは思っていたけど、そこからそれに結び付けられるのは怖かった。
私が黙りこんでしまったのを、桜井くんはどう思ったのかは分からなかった。ただ桜井くんはいたずらっぽく口角を吊り上げる。
「じゃね。明日、侑生に三国の飯美味かったって自慢しとく!」
「え、あ……」
いつもおばあちゃんが出ていくのばかりを見ているせいか、桜井くんが出ていく足取りは妙に軽く見えた。
その背中を見送ろうと顔を出すと、桜井くんは自転車に乗って「また月曜ねー」と私がろくに返事もしないうちに走り去ってしまった。
何を食べるでもないのに、台所に戻って、いつもの席に座った。向かい側は当然空っぽだ。
さっきまで、ここに桜井くんがいた。目を閉じるまでもなく、その光景は脳裏に焼き付いていた。
『これなに?』
『……小松菜と鶏むね肉を豆板醤で炒めたもの。名前はない』