ぼくらは群青を探している

(2)告知

「おい桜井!」


 昼休み、大声で二人の名前を呼びながら扉を開けたのは蛍さんだった。

 灰桜高校(はいこう)で蛍さんを知らない人はいない。教室に残ってお昼を食べていた人の目は一斉に蛍さんに向いたし、当然のことながら教室内は水を打ったように静まり返った。ちなみに桜井くんは不在だった。

 五組の金髪は桜井くんだけなので、蛍さんは一見して桜井くん (と、なんなら雲雀くん)がいないと気付いたらしい。その綺麗な眉を吊り上げて「おい、桜井いねーじゃねーか」とぼやくと、背後からひょいと能勢さんも顔を出した。


「あれま、本当だ。ね、桜井くんは?」

「えっ? お、俺?」桜井くんと全く話したこともない男子が、扉近くというだけで話しかけられ「いや知らないです……すみません……」とボソボソ答える。


「おい、三国いんじゃねーか」


 そして当然、蛍さんは私に気が付く、と……。三年生の先輩なので、立ち上がって「……お久しぶりです」と軽く会釈した。蛍さんは能勢さんを連れて教室に入ってきて「お前みたいな礼儀正しさが桜井と雲雀にもあればな……」とどこか呆れた顔をした。


「や、三国ちゃん、久しぶり」

「お久しぶりです……」

「暫く会ってなかったもんね。夏服、似合ってるね」


 衣替えの移行期間が終了し、教室内の風景は全体的に白っぽくなっていった。セーラー服は襟、袖口とスカートは紺色、スカーフはとラインは赤のままで、代わりに白ベースとなる。だから何、という話なのだけれど、そういう点にいちいち着目するのが能勢さんがモテる理由なのかもしれない。

 ちなみに男子は詰襟の学ランを脱ぐだけで、桜井くんみたいに半袖シャツを着る人と雲雀くんや能勢さんみたいに長袖シャツを捲る人とで分かれる。陽菜に言わせれば長袖シャツを捲るほうがポイントが高いらしい。

 そのポイント高めの能勢さんは、確かに白シャツ姿だといつもより一層イケメンに見えた。陽菜なんて能勢さんに見惚れて硬直している。もうすぐそのお箸から卵焼きが落ちそう――いや落ちた。でも陽菜は能勢さんから視線を外さない。そっと周囲を見回したけれど、大体の女子は軒並み能勢さんに目を奪われていた。


「おい三国、桜井はどこだよ」


 ただ、能勢さんみたいな色気がないとはいえ、蛍さんも負けず劣らずの綺麗な顔立ちだ。少し離れた席で「え……あの二人やばくない……?」「(ブルー・)(フロック)のトップ2でしょ……」と噂するのが聞こえた。


「……桜井くんと雲雀くんなら、いつもコンビニでパン買って、そのまま外で食べてますよ」

「チッ。あのなあ、桜井にケータイ買えって言っとけ! なるはやで!」


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