ぼくらは群青を探している
「まあ、半分そうだな」
「いや俺は知らないですよ」
「半分……」
もう半分は一体なんなのだろう。群青のメンバーに勉強を教えるなんてふざけた理由だし、それと釣り合う理由と考えると大した理由ではないように思えるけど、本当にそうだろうか。
考えられる理由としては、やっぱり桜井くんと雲雀くんを引き入れるためだけど、それならこの間の拉致で事足りた話だし……。釈然とはしないけれど、ただその疑問をここで口には出せなかった。
「いまの二年にも留年して二回目の二年やってるやついるんだけど、まー、腫れ物扱いだよね。特に群青の三年なんて、先輩中の先輩だから。二年にとっては居心地悪いのなんの」
「お前特別科なんだから群青のダブりはいねーだろ」
「だから俺は関係ないですよ。他の二年がやりづらいって話してて」
確かに一般論として教室内に留年した人がいると気まずいか……。まさしく能勢さんのいう腫れ物扱いをしてしまう人がいるのは理解できる。しかもそれが群青、体育会系以上に上下関係がはっきりしていそうな団体となると猶更かもしれない。
「……別に、いいといえばいいですけど……私、教えるの大して上手くないと思いますよ……」
「えー、三国は教えるの上手かったよ」
桜井くんの声に振り返ると、カフェオレを飲みながら戻ってきたところだった。そのまま「こんにちはー」「……こんにちは」と背後の雲雀くんと揃って蛍さんと能勢さんに挨拶する。
「……お前、飲みながら先輩に挨拶してんじゃねーよ」
「あー、あー、そっか」
「マジで三国見習え、マジで」
コイツちゃんと立って挨拶したんだぞと蛍さんが指をさすけれど、桜井くんは「えー、三国えらっ」とどこ吹く風だ。
「てか蛍さん何してんですか?」
「お前にケータイ買えって言いにきたんだよ!」
「ああ、それは本当に俺もそう思う」
つい先日、桜井くんの家の前で待ちぼうけを食らわされた雲雀くんのセリフだと含蓄がある。経験者は語るというヤツだ。
「お前がどこいるのか全然分かんねーし、でもってあっちこっちウロウロしやがるし、気付いたら家に帰ってるし、猫か? って感じだな」
「お前らはホモかって感じだけどな」
「殴っていいですか」
「先輩に殴っていいかとか言うんじゃねえ」
「先輩だから聞いたんですけど」
桜井くんも雲雀くんも、多分群青の下っ端として蛍さんに敬語を遣うことにしたのだろうけれど、その態度には大した変化はない。先輩だから殴る前に確認するのだって、いまいち敬意の基準が分からなかった。
そして携帯電話を買えと言われた桜井くんは「うーん」とカフェオレのストローを口から離さないまま腕を組む。
「だって、父さんいないとケータイ買えないじゃないですか。暫く無理」
「いつなら無理じゃねーんだよ」
「うーん、お盆くらい?」
「面倒くせーな、それまで雲雀を伝書鳩にすっか」
「イヤですよ」
雲雀くんの返事は冷ややかで、かつ早かった。
「で、胡桃は何やってんの」
「もう蛍先輩と全く同じ。早くケータイ買ってほしくて」
牧落さんは蛍さんと同じく手近な椅子を引いて座り込んだ。この椅子の持主である男子は、きっと内心ガッツポーズだ。
「昨日、夕飯届けに行ったのにいなかったじゃん。どこ行ってたの?」
「昨日は侑生と飯食ってた」
「もう侑生と付き合えばいいのに……」