ぼくらは群青を探している
 今度は雲雀くんは無言だった。前回牧落さんが来たときのことと蛍さんへの対応とをあわせて考えると、これが雲雀くんなりの距離感なのかもしれない。


「今日の夜は? いるの?」

「多分いる」


 途端に雲雀くんが呆れ顔で「お前今日集会だつったろ。夜に予定入れてんじゃねえ」「あ、そうだった無理、いない」……本当に雲雀くんと付き合ったほうがよさそうだ。その様子を見ている蛍さんは小刻みに足を揺らしているので、多分イライラしている。


「お前、マジで喧嘩以外能なしか? 初っ端から集会すっ飛ばしやがったらお前の頭をすっ飛ばすからな」

「え、こわ。侑生、集会の日絶対声かけて。一人で行かないで」

「知らねーよ」

「ていうか集会ってなに?」


 特別科にいる牧落さんからすれば、不良なにそれ化石?なんて思えているだろう。いや、桜井くんが幼馴染だから、辛うじて絶滅危惧種くらいに認識しているのかもしれない。いずれにしても、牧落さんに無縁な話であることには変わりない話ではあるからか、桜井くんはひらひらと手を振った。


「あー、(ブルー・)(フロック)の話。胡桃関係ないよ」


 ただ、桜井くんの断り方がまずかったのだろう。牧落さんは眉を八の字にして誰がどう見たって (それこそ私が見たって)分かるくらいには悲しそうな顔をした。

 おかげで全然関係ない隣の蛍さんまでが「……お前彼女には優しくしてやれよ」と注意する始末。桜井くんは慌てて手を横に振った。


「いやいや、あの、ほら、(ブルー・)(フロック)の集会って胡桃には関係ないことだし、なんか下手に話したら巻き込みそうだし、なっ!」

「……だったらそう言ってくれればいい話じゃん」

「だって説明すると長いじゃん!」


 いやいまの説明短かったじゃん……と思ったけれどさすがに口には出さなかった。


「でも桜井くん、女子は相手のことを何でも知りたがるものだから、下手に隠そうとしたように見えるのはよくないんじゃない?」


 やっぱり能勢さんの色気は経験の豊富さからくるものなのだろうか、妙に説得力があった。桜井くんも (能勢さんのことはなんかやだなんて口では言いつつ、むしろだからこそ)納得はしたのだろう。口をへの字に曲げながら「……まあ悪かったですけど、俺の言い方も」と少し反省する。


「ていうか、その(ブルー・)(フロック)って三国さんはいるんでしょ? わたしもメンバーなりたい!」

「え、(ブルー・)(フロック)ってそういうもんなの?」

「違うな。俺、基本的に女子受け付けてねえから」


 桜井くんの素朴な疑問に蛍さんは端的に答えた。……じゃあ私は?


「じゃあ三国が(ブルー・)(フロック)なのはなんでですか?」


 そんな私の心の声は雲雀くんが代弁した。


「三国は特別だ」


 蛍さんは立て膝に頬杖をつき、その口角を吊り上げた。

 まさしく〝特別〟に聞こえるその響きに、背筋が震えてしまうのは、新庄の一件から生じた不信感を私が(ぬぐ)えていないからだ。


「特別……?」


 牧落さんが首を傾げる横で、桜井くんも「てか蛍さん、マジで三国のことお気に入りだよね」と首を傾げた。


「ゴールデンウィークも三国のことで怒るし。なんも知らないヤツが見てたら蛍さんの女が三国って勘違いされそう」

「そ――」

「ああ、俺はいいけど。三国、俺と付き合うか?」

「は?」


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