ぼくらは群青を探している
「……一色東中……」

「んじゃ、(しゅん)と同じじゃね?」どうやら桜井くんも話を聞いていたらしく、あたりをきょろきょろ見回しながら「アイツは? どこ?」

「舜は六組だ」


 「シュン」という名前を含む氏名の候補はいくつか浮かんだけれど、下手に関わり合いになりたくないので聞き返すことはしなかった。


「一色東中でもずっと一番か?」

「まあ……」

「ふーん……。ま、東中だけちょっと離れてんもんな」

「侑生……。お前マジで悔しいんだな、マジでかっこ悪いからやめたほうがいいぞ」

「別にそんなんじゃねーよ」


 五組の誘導が始まると、二人はお行儀よく誘導に従った。二人の隣の席だったから二人の後ろについていったのだけれど……、私の後ろには一メートルくらいの間隔が空いていた。しかも「噂、マジだったんだな、二人とも灰桜高校(はいこう)に来るとか」「しかもよりによって揃って五組かよ……」「マジ最悪だ、殺されるより先に死にたい」と念仏(ねんぶつ)のごとくボソボソと嘆きの声が聞こえる。


英凜(えり)! 英凜!」


 そんな中、後ろから腕を引っ張られ、二人の背中から離された。驚いて振り返ると、そこには、中学の間にすっかり見慣れた顔がある。


「……陽菜(はるな)、五組だったの?」

「そーだよ! てか英凜が五組のほうがびっくりした!」


 陽菜はボブを揺らしながら「てか連絡しろよお、普通科とか思わないし!」と私の背中を勢いよく叩いた。


「……ごめん、陽菜も普通科と思わなかったし」

「あたしの成績で特別科に入れるわけねーだろ! 余裕で普通科だわ、多分入試の数学、2点とかだし」


 はっきりした顔立ちのとおり、陽菜はサバけた性格で、半分男みたいな喋り方をする。


「てか……やばくね? うちのクラス、桜井と雲雀がいるんでしょ?」

「あー……あの二人」

「……え、マジ?」


 どうやら陽菜(はるな)は二人と私を結び付けてはいなかったようだ。それどころか、桜井くんと雲雀くんのことは知っていても顔は知らなかったらしく「超イケメンじゃん!」と後ろから見える限りの横顔に小さな声で歓喜した。


「ヤバ! 金髪が桜井だよね? ってことは銀髪が雲雀か。可愛い系の桜井かカッコいい系の雲雀か……。雲雀かなあ!」


 キャーッとでも聞こえてきそうな声音だった。陽菜は自他ともに認めるメンクイだ。


「……桜井くんと雲雀くんって有名なんだね」

「はーっ? お前マジそういうとこだよ、桜井と雲雀知らないとか有り得ないから!」


 みんなが知っていることは陽菜に聞けば事足りる。中学のときから変わらずそんなことを思いながら「あの二人はさあ」と陽菜が教えてくれる情報を頭に入れる準備をした。

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