ぼくらは群青を探している
「うんうん、仕方ない仕方ない」桜井くんはそれに便乗して「(ブルー・)(フロック)は蛍さんのチームだから蛍さんに決定権限があるし。蛍さんが決めたことに従わないと」

「じゃあ昴夜がいつかトップになったらわたしも入れてね?」


 固まった桜井くんを雲雀くんが呆れた顔で見つめる。余計なことを口走るからだ、と。


「ね!」


 牧落さんはずいっと桜井くんに詰め寄る。でも美少女なので可愛らしい小動物にしか見えない。


「……その時に俺に彼女いなかったらな」

「どうせできないよ、昴夜チビだし」

「胡桃よりデカいだろ!」

「男の身長は一七〇センチから! じゃ、約束だからね、こーや!」


 あっかんべーをして牧落さんは去っていった。昼休みがもうすぐ終わるからだ。


「……桜井くん、あんなに言われるんだから牧落さん入れてくれるように蛍さんに頼んであげたら」

「いやそんなことしたら胡桃の両親に殺されるよ俺が!」


 早口で、かつ素早く手を横に振りながら桜井くんは拒否した。


「アイツの家、マジで厳しいから! 教育パパママで、学校の成績悪いとリアルに飯抜かれたり殴られたりするから! 不良集団と仲良くしてるなんてバレたら勘当されるって!」


 DV……? 聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。その困惑が顔に出てしまったのか、雲雀くんは「牧落が殴られたのは聞いたことねーだろ。牧落の兄貴がビンタさらたくらいじゃね」とあくまで躾の範囲かのようなフォローをする。


「……それにしたって、厳しいね……?」

「なんだっけな……そうそう、学歴が人生の汚点にならないようにしっかり勉強しろ、が口癖。怖いよなー、俺だったら家出しちゃう」


 教育パパママなんて表現はいくらでも耳にするからそれ自体は気にならなかったけれど、そこまで具体的なエピソードを聞くと狂気を感じる。


「……よくそれで歪まないで生きてるね。普通に可愛いし普通にいい子じゃん、牧落さん」

「まー、あんな感じでうるさいけどな。世話焼きだし」

「弟もいるの? 牧落さん」

「ん? いや、兄貴だけ。なんで?」

「世話焼きっていうと大体下の兄弟いるイメージだから」


 なんなら牧落さんの言動に世話焼きと言えそうなものはなかったので、お兄さんしかいないと聞いて納得した。確かに、あの言動は妹のものだ。


「牧落の兄貴って今年から大学だっけ」

「ああ、うん。なんかどっか東京の私立行った。ほらあの甲子園強いところ」

「ああ、早稲」

「そんなんだしさあ、アイツ、俺に絡むのやめたほうがいいと思うんだよね。俺、頭悪いし、胡桃の親からもつるむ価値なしみたいに言われてるし。でもって(ブルー・)(フロック)にいるし、なんか一緒にいたらアイツ巻き込まれそうじゃん」

「現に三国がそうだしな」


 ……そういえば、なぜ、拉致されたのは私だったのだろう。桜井くんと仲が良いのなら牧落さんでもいいはずだ。なんなら牧落さんのほうが美少女だし、新庄としても拉致する価値が高いはず……。

 牧落さんが桜井くんの幼馴染だと知らなかった? いやでも、私が拉致される以前に牧落さんは五組に遊びに来て、桜井くんの幼馴染だと宣言していた。ただこれはあの昼休みこの場にいた人しか知らない話だ、やっぱり新庄は牧落さんが桜井くんの幼馴染だとは知らなかった可能性がある……。そうでなければ……、牧落さんではなくて私である必要があった?


「三国、どうかしたか」

「え? あ……いや……」


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