ぼくらは群青を探している
(3)証拠
「ツツモタセ?」
桜井くんは知らない単語だったらしく、目を丸くした。
「美人局って書いてツツモタセって読むんだよ」
隣の雲雀くんが古びたメモ帳に勝手に書き込む。顔立ちのわりに字が汚くて思わず二度見した。
「最近時々聞いてたんだよな。群青のメンバーにはいなかったんだけど、いかにも童貞っぽい連中が誘われて強請られてる話」
頬杖をついた蛍さんは、どこか呆れた顔をしている。
「今回も美人局で間違いはないんすか?」
「颯人の言ってることを信じるならな。なあ、颯人」
「はい、すみません」
中津くんは申し訳なさを表すように正座している。
土曜日の昼間、私達は桜井くんの家の居間に集まっていた。理由 (というか原因)はもちろん、中津くんが遭ったという美人局だ。
群青にいる以上蛍さんの命令は絶対なんて不文律を前に美人局の交渉役なんてものを任された。どうやらこの一件、私が群青に入る直前に起こった事件らしく、蛍さんと能勢さん曰く「三国を入れた理由の残り半分」だそうだ。納得がいかなかったけどそうだと言われたらそうなのかと頷くしかない。
ただ結局その事件って何、というわけで、一人暮らしで騒いでも迷惑にならない桜井くんの家で美人局をどうにかしよう会議を開く羽目になった。ちなみに桜井くんは例によってバイト後の仮眠明けで眠そうだ。
「えっと……話を整理すると、こういうことですよね?」
一通りの話は中津くんから聞いたので、桜井くんのノートに要点を整理する。
「ホテルに誘われて、部屋に入って……えっと、その……服を脱がせ終えたら……男が二人入ってきたと」
いかんせん内容が内容なので復唱しているこっちが恥ずかしかった。でも多分一番恥ずかしいのはきっとこれを赤裸々に語る羽目になった中津くんだ。俯いたまま「……そうです」と頷く。ちなみに中津くんは私達と同級生だけどお世話になるからという理由で敬語を遣っているらしい。
「……で、その女の人は無理矢理されそうになったとかなんとか言って、男二人が犯罪だよとか警察に駆け込むよとか言ったと」
「……そうです」
「……警察はやめてくださいって言ったら十万円持ってこい、と?」
「……そうです。あ、なんかジダンキンとかなんとか言ったと思います」
「……まあ言葉の違いだと思うけど」
「シンプルな手口だけど、これが流行ってんだよなあ」
蛍さんがぼやいたけれど、逆だろう、シンプルな手口だから手を出しやすくて流行る気がした。
「つか、マジで無理矢理だっつーんなら十万円って安いんじゃねーの」雲雀くんは私の隣で気だるげに頬杖をついて「なんか親に土下座すれば出せる額つっつかれてる感がうぜーな」
「実際、それで払った灰桜高校の連中もいるらしいからな。クソばっかりだ」
喫煙者と外道が嫌い、か……。蛍さんの口癖を思い出しながら、コツコツとノートを指で叩いた。