ぼくらは群青を探している
「……でも実際、警察に行くぞなんて言われたら怖いですからね。その……えっと、私、男子のそういう感覚は分からないんですけど、服を脱がせるまでいけば、なんかこう、得をしたというか、えっと、言い方は悪いですけど……おいしい思いをしていないとは言えないというか、そうですよね、きっと」


 サッと全員が視線をそらした。このくらいならパターン化ができていなくても図星を指してしまったことは分かる。男子の間に入って話すことなんてないのでますます気まずい思いが募る。


「そういう……ちょっとおいしい思いをしたという自覚もあるんでしょうし、それに対して、こう、恐喝するというのは、相手の弱味をうまい具合につつく、ベタで古典的ですけど効果的な脅し文句です。深く考えたことはなかったですけど、美人局ってよくできてますね」

「冷静に言ってんじゃねーよ、三国。お前が交渉すんだぞ」

「だからそれが無理難題……」

「群青入ったんだから俺に文句言うんじゃねえ」


 でもそんなとんでもない交渉をさせるつもりだということくらい教えてくれてもよかったのに……。ただ蛍さんが「度胸を買ってやる」と話していたのは分かった、これのことだったのだ。


「つか、これって証拠ねーんだろ」雲雀くんはシャーペンの背でノートを叩いて「警察に駆け込むつっても無視すりゃいんじゃね。はったりじゃねーか」

「あ、それが動画撮ってるって……」

「逆に美人局でしかねーな、それ」

「てか自分の女にそんなことさせんの? こわ……」

芦屋(あしや)――(しら)(ゆき)のトップはこんなクソじゃねーんだけどな。あんまり下見るのが上手いヤツじゃねーんだ、原因はそれだな」


 つまりその芦屋さんもこんなことが起こっているとは知らないのではないか、と……。確かに可能性は充分にある。


「てか、いま侑生、逆に美人局だつったじゃん。警察に動画出すって言われたって、そんな動画出したら『コイツ狙って最初から動画撮ってたな』とか思われないのかな」

「思ってもらえる可能性はあるけど、それに対しては言い訳ができると思う。例えば『中津くん自身にホテルに連れ込まれた』『連れ込まれて怖かったから自衛のために隙を見てビデオをセットした』って感じかな。それならビデオを撮ってる理由が不自然とまでは言えなくなる」

「おお……なるほど」


 そもそも警察がどう捜査を進めるのかは知らないけど、相手が言い訳をできるような手の打ち方は得策じゃない。手口はごくシンプルだし、似非(えせ)証拠になるものも大して持っていないだろうけれど、それは希望的観測だ。それに賭けるには情報が足りない。


「よかったな、中津、三国がいて。頭がイイヤツいると話が早い」


 桜井くんが納得する横で雲雀くんも頷けば中津くんが「いやもうマジありがとうございます」と頭を下げた。まだ何も話は進んでいないのでお礼を言われるには早い。


「……それに、そもそも常習なんだろうし、警察に駆けこまれたって知るかって逃げ切るよりは正面切ってこの件はなかったことにするほうがいいと思う。一番いいのは群青のメンバーを引っ掛けるとしっぺ返しを食らうと思わせること……」

「最初は青い顔してたくせに、なんかやる気だな」

「いざってなればやる男じゃん、カッコイー」

「女なんだけど」


 囃し立てる二人の隣で、蛍さんも「いいね、それでこそお前を入れた甲斐がある」と悪くなさそうな反応をした。


< 116 / 522 >

この作品をシェア

pagetop