ぼくらは群青を探している
 三人はそのまま中津くんの携帯電話を見続け「颯人(はやと)、お前慣れてんなー、そんな顔して遊んでんだろ」「いやいや噂に聞く雲雀先輩ほどじゃないですって」「あーそうだ一番噂あんの雲雀だな」「いや噂ほどじゃないです。つか俺の噂の影に昴夜が隠れるのが気に食わない」「隠れる程度ってことだよ、俺は。てか蛍さん意外とそういう話聞かないですね」「誠実さが売りだから、俺は」完全に脱線した。それどころか聞いてはいけない話を聞いてしまった。いたたまれない気持ちというのはこういうものをいうのだろう。


「……すみません、帰っていいですか」

「ああ、悪いな三国」


 蛍さんはとりたてて悪びれもせずに私に視線を戻したけれど、桜井くんと雲雀くんは揃って顔を背けて視線をそらした。まるで悪戯が見つかった子供だ。

 動画を一周した後、蛍さんによれば「とりあえず見た感想、普通に手出してる撮られ方されてんな」ということらしいので、どうやら(スノウ・)(ホワイト)――もとい白雪(しらゆき)の持っている証拠は手堅いらしい。


「……じゃあ何も映らないようにするのは不自然、というか無理ですね。意外としっかり証拠を作ろうとしているのかもしれません」

「これ、コイツが脱がせろって言ったのか?」雲雀くんは中津くんの携帯電話をもう一度覗き込んで「それともお前が流れでやった?」

「あー、えっと、普通に脱がされるほうがいいとか言われたと思います、多分」

「まあこっちだって脱がすほうがいいもんな」

「桜井」

「はいすいません」

「じゃ、脱がせろって言ってくるかもしれねーな。脅しにならない脅しの材料作らせないといけねーけど、手出してない動画は難しいかもな」


 雲雀くんのいうとおりだ。脅しになる脅しの材料、つまり相手に確たる証拠を与えるのは避けなければならない。

 コツコツと指で机を叩く。考えを整理しよう。このおとり捜査 (と呼ぶことにしよう)をするにはいったんは相手に恐喝材料を与える必要がある。ただ、その恐喝材料は相手が恐喝材料だと思い込んでいるだけの抜け殻でなければならない。……いや、それだけでは恐喝材料になってしまうとしても、それをひっくり返す証拠があればいい……?


「……男が女に手を出してる動画は、あくまでも男が女に手を出したことしか証明しない。その行為が無理矢理だったかどうかはまた別の話だから、仮に手を出してる動画を撮られたとしても、それとは別にその二人の間で合意があったんだってことを証明できるものがあればいい……」


 蛍さんと中津くんが首を捻るので「相手は絶対動画を撮りますけど、それに細工をするのは難しいかもしれないので、その動画より前に例えば意気投合してそういうことをする関係になったとか、そういう証拠を作る方向から考えたほうがいいかもしれません」と付け加えたのだけれど、二人が納得した様子はない。ただ、雲雀くんと――意外にも桜井くんが「ああ、なるほどねえ。そりゃそっか」と納得した。


「証拠なんて、それ一個で持つ意味なんて決まってるもんね。一個の証拠に一個の事実を証明されるなら、その証明をひっくり返す別の証拠を持って来ればいいわけだ」


 しかも納得したふりではない。もしかして桜井くんはおバカなふりをしているだけなのかもしれない。

 蛍さんはガシガシと長い髪をかきまぜた。


「……まあ、よく分かんねーけど、その証拠作るってどうすんだ。てか具体的に何作るんだ」

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