ぼくらは群青を探している
「考えられるのは女から誘ってる様子を動画に撮ることですね。美人局側が誘うに決まってるんで、その様子を撮っとく」

「うん、それが簡単で確実だと思う。おとりになる人が録音機持って音声を録音して、外から他の人が録画してればいい」雲雀くんの提案に頷きながら「中津くん、美人局側から誘われたよね?」

「あ、それはもちろん。普通に遊びに行こーみたいな」

「つか、これ誰がやるの?」


 桜井くんが唐突に作戦の難点をついた。


「上手くやれば中津が助かるし群青に手出されることなくなるけど、下手したらゆすりのネタが増えるってことだよな」

「ま、そうだな。だから失敗できねーし、でもって相手に気づかれたらおしまいだ」

「その意味だと蛍さんはできないですね。白雪の連中だってんなら、蛍さんの顔は分かってるでしょうし。昴夜とかでいいんじゃね」

「俺? 俺絶対顔に出るって。侑生のほうがよくね? ポーカーフェイス得意だろ?」

「雲雀は狙われねーだろ、こんな手馴れた顔したヤツ、引っ掛けに行ったら引っ掛かるだけだってサルでも分かる」

「それ遠回しに俺が童貞っぽいって言ってないすか」

「お前意外と遊んでるのにその顔は得だよなあ」


 うーん、と四人は腕を組んで考え込んだ。誰を生贄に捧げるかはそっちで考えてくれ、と私はペンを手に取ってノートの中に今までの情報を整理する。私達が手に入れられる証拠と、それが何を弾劾することができるか――。


「……三国に男装させればいんじゃね?」


 そして、桜井くんがとんでもない爆弾を落とした。

 一瞬、自分が呼ばれたのか分からなかった。そのくらい唐突過ぎる人選だった。


「……えっ?」

「……確かに、最悪触っても女だって言えば犯罪にならないんじゃね? それどうなんだ?」

「知りませんよそんなこと!」


 まるで名案であるかのように話に乗ろうとした蛍さんに思わず大声を出してしまった。


「別に男女関係ないらしいですよ」携帯電話でカチカチ調べていた雲雀くんから助け舟が出された。


「じゃあ私じゃなくてもよくない!?」

「でもほら、蛍さんは顔バレしてるし、侑生は狙われにくそうだし。三国がやったほうが慣れてない感じ出ていんじゃね」

「慣――」


 慣れてないどころか分からないんですけどと答えかけてぐっと続く言葉を飲み込んだ。そんなことをこんなところで言えるはずがない。


「まあ、昴夜の言うとおりかもな。つか慣れてないとかなんとかいえば向こうが脱がせてくれるんじゃね」

「だからなんで私がやる前提なの!」

「俺は顔バレ、雲雀は警戒されやすくて、桜井は顔に出るし、なんなら多分コイツは臨機応変にできない」

「私だってそんなの無理ですよ!」

「新庄の前で俺に電話かけたやつがよく言うよなあ?」

「あれは電話かけただけで演技とか要らないんで!」


 このままだと本当に私がおとりをさせられることになってしまう。ぶんぶんと首を横に振るけれど、蛍さんは「実際適任は三国しかいねーかもなあ」と群青のメンバーを思い浮かべるように腕を組んだ。


「つか、そもそも美人局って分かってれば手出さずにいられるかって言われたら、まあ大抵のヤツはなあ……」

「据え膳食わぬはなんとやらってね」

「据え膳つか毒皿だけどな」

「確かにぃ」

「しかもめっちゃ可愛いですからね!」

「テメェのせいでこうなってんだふざけてんじゃねぇ」

「すみません……」


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