ぼくらは群青を探している
 このままでは私がおとりをさせられる羽目になってしまう。誰か、誰かいないか、いやそうじゃない、このおとりになる適任はどんな人物かから考えよう。それか、私が不適切だという理由を考えよう。

 そういうことに慣れてないから不適切――いや逆だ、雲雀くんのいうとおり慣れてないほうが相手も警戒しないかもしれない。

 後々交渉役に出るから不適切――いややっぱりこれも逆だ、わざわざ証人をもう一人立てるよりも私自身が前に立ったほうがいい。

 他には、他には――。


「三国よお、お前言っただろ?」


 必死に逃げの手を探そうとする私に、蛍さんが次の手を打つ。


「群青の仲間になるのに覚悟が必要なら持つってな。お前の言葉には二言ありか?」


 ……安全圏にいないで、覚悟を持って群青の仲間を助けるために役に立てと。蛍さんはそう言いたいのだろう。

 ほら、陽菜、私が〝お姫様〟じゃないのは、こういうところだよ。私にテレパシーが使えたらいまそう伝えていた。でも同時に、私が望んだのもこういうところだよ、とも。


「……分かりました。やります」

「おー、さすが三国、カッコイー」

「言い出しっぺの桜井くんにしっかり手伝ってもらうことにします」

「あれ?」

「ま、お前と桜井、大して大して身長変わんねーだろ? 服貸してやれ」

「別にいいすけど……三国の髪とかどうすんの?」


 確かに、肩より下まであるし、ちょっと髪が長めの男子ですなんて言うわけにはいかない。大体、ただでさえ男装をするのだ、髪型は男っぽくあるに越したことはない。


「……必要なら切りますが」

「いやいやいや」

「それは待て」

「そこまではさせねーよ!」

「もっと自分の髪大事にしましょう!」


 しごく合理的な意見を述べただけだったのだけれど、全員にここまで反対されるとは思わなかった。蛍さんも覚悟を持てと言ったりそこまでさせないと言ったり忙しい人だ。

 雲雀くんは眉間に皺を寄せて私の髪を眺めながら「……編み込んで隠しても女にしか見えねーもんな。大人しくウィッグつけたほうがいいんじゃね」

「十万払うよりまあ安いしな」

「……こういう面倒があることを考えると私ではなく桜井くんとかがやったほうがいいのではと思えるんですけどね」

「桜井は顔に出るつってんだろ」

「……ところで、中津くんはお金を持ってこいって言われてるんですよね? それ期限いつですか?」

「来週の金曜日だな」

「じゃあ三国の計画実行すんなら木曜日までには美人局に遭ったほうがいいな」

「……そうなるともう少し情報を整理しておきたいんですが」トントンと机を叩きながら「その美人局が現れるのはいつどこなのか、狙われるときのパターンはどうか。闇雲に美人局を待ってもこっちも準備ができないので」

「なるほどね。分かった、そこらへんは俺が聞いといてやる。お前らが三年にそんな話聞いたら目立つからな」


 あれ、この人のこと信用していいんだっけ――一瞬警戒心が顔を出したけど、今回の件は中津くんという群青のメンバーに関することだ。桜井くん達をメンバーに引き入れるために新庄の件を仕組んだとしても、それは群青のためだったと考えれば、蛍さんの関心は群青にあると言っていい。その意味では中津くんの件に蛍さんが協力的に、私達を裏切らずに動くことは期待できる。


「お願いします。じゃああとは……」


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