ぼくらは群青を探している
「言っただろ、相手が女じゃないと怖くてってごねてる話。お前しか行けない」


 いや雲雀くんでも行けないことに変わりはないのでは――と口を開く前に分かった。なんなら雲雀くんも理解したらしく、そのこめかみに青筋が浮かんだのを見てしまった。


「……女装しろと?」

「正解」

「殴っていいですか」

「いいじゃん、女装似合うのなんて十六歳くらいが限界かもよ。骨格とかやっぱり違うし」

「いやその限界挑戦する気ないんで。人の顔で遊ぼうとすんのやめてください」


 雲雀くんは全く取り合う気などなさそうに手をしっしと振ったけれど「でもお前が行かねーと三国が単騎で白雪に乗り込むことになるぞ」卑怯な指摘でじろりと蛍さんを睨んだ。


「……交渉場の外にいればいいんじゃないですか」

「交渉中に三国がどうなるか分かんねーだろ。電話は繋いどくけどな」

「だったら余計に……」

「中から鍵でもかけられたら厄介だろ」


 雲雀くんは舌打ちしたけれど、それが返事だ。蛍さんは口角を吊り上げて満足気に笑む。


「決まりだな」

「で、桜井くんは変な動画撮られないように気をつけなよ。アングルとかちゃんと把握してる?」

「あー、まあ中津のは見せてもらいましたけど……」


 能勢さんの指摘で、桜井くんは少し眉間に皺を寄せる。


「知ってる部屋ってわけでもないし、ビデオの場所とか確認するのはちょっとキツイかなって」

「まあ、だろうね。連中も上手く撮るための場所は気にしてるだろうし、そのために毎回同じとこなんだろうし、どこから撮ってるかわかれば楽なんだけど……」

「……行けばいいんじゃないですか?」


 途端、ザッと四人の視線が一斉に私に向けられたのでたじろいだ。頭が良いという能勢さんがなぜその手段に言及しないのかが不思議なくらい、合理的な意見だったはずだけど……。


「えっと……駄目ですかね……」

「……いいけど誰と行くつもりだお前」

「え、おとりの桜井くん以外誰が……」

「雲雀ついて行け。……いやお前なんも安心できねーな」

「安心してもらって大丈夫ですけど」


 ややムキになった雲雀くんに能勢さんが吹き出した。別に、密室というか仕切られた空間の中に二人しかいないなんてついこの間も(うち)で起こっていたことだし、何か問題のあることではない。そこに雲雀くんがいてもいなくても同じことだ。


「……別に桜井くんと二人でも大丈夫ですよ」

「いやさすがにマズくね? いや俺は何もしないけど」

「ラブホ入って何もしてないが通用するわけねーだろ!」

「ラブホ? 問題のホテルってホテルGround(グラウンド)-(・)0(ゼロ)ですよね」


 中津くんが美人局に遭ったホテルの名称は当然押さえているし、蛍さんと能勢さんが調べてくれた結果としても、美人局被害が出ているのはそのホテルだ。ラブホなんて名称ではない。

 その返事に、さっきと同じくザッと四人の視線が一斉に私に向けられたので、さっきと同じくたじろいだ。今度も間違ったことは言っていないはずだ。


「……あの?」

「……三国ちゃん、ラブホが固有名詞じゃないってことは分かるかな?」

「え、あ、そうなんですか?」


 有り得るとすれば通称だけど「ホテルGround-0」の通称はどうやってもラブホにはなりようがない。能勢さんから向けられた優しい眼差しに目を丸くしてしまった。


「じゃやっぱりホテルGround-0で……」


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