ぼくらは群青を探している
連れて行かれたのはただのホテルだった。ただの、というわりにはフロントに人がいないことが気になったし、宿泊でもないのに入れるのも妙だったけれど、内装に普通と違う点はない。というか、ホテルなんて小学生のときに家族旅行で行ったくらいだからホテルの一般化なんてできていないし、ホテルGround-0の特異性 (?)が一体何なのかはやはり分からなかった。
なにかが他のホテルの違うのだろうと決めつけて、二人が中津くんの動画片手にあれやこれや話すのを横に部屋のあちこちに目を配る。一見して普通のホテルと違うところがある気がしたけれど、その違和感の正体は分からない。
「なんか置けば分からないんじゃね? ほらこれでこうやって隠せば……」
「逆に不自然だろ。カバンを横向きに置くとか」
「あー、なるほどね。そうかも」
そっとバスルームを覗くと、円形の巨大なバスタブがある。バストイレも別なので、もしかして少し豪華なホテルだろうか……? ベッドも巨大で、私達三人なら川の字になって寝ることもできそうだ。ただ美人局なんてもののためにわざわざ豪華なホテルを選ぶ理由が分からない。豪華なホテルのほうが警戒心が弱まるとか……それはいわゆる行き摺りの関係で使える手段ではない気がするけど……。
「……もう角度分かったからよくね?」
「……まあいんじゃね。やるのお前だし、お前がいいなら」
「上手くやれるか分かんないけどさー、あんまりここいるの良くなくない? な、三国!」
そういえば天井が低くて狭苦しい気がする……と周囲を見回していて気が付いた。そうだ、窓がない。ホテルなのに窓がないなんて有り得ない。窓はあっても小さくて閉塞感があるなんてことは安いホテルならいくらでもあるかもしれないけど、この部屋にはそもそも窓がない。
「なるほど、なるほど……」
もしかしたら設計ミスで少し安いホテルなのかもしれない。……いや、いくらミスをしたって言っても窓がないなんて有り得ない、窓がないとしたらそれはミスではなくて意図的なはず……。もしかしてバブル期に建てられたホテル? 低予算の都合で何かを削る必要があって、でもよくあるように柱を削ると耐震上問題があるから窓を削った……。素人の勘だけれど、窓をつけるよりつけないほうが簡単に決まっているし、窓がないからといって建築上問題はない気がする。
合点がいった、設計ミスなんて大っぴらに口に出せることじゃないし、設計ミスで安いことに対する隠語としてラブホが使われているのかもしれない。……それにしたってなぜラブなのだという疑問はあるけど、愛は無償だからlove=zero、通常の設計上必要なものがない、つまりゼロからラブ……! ホテルGround-0の0=loveでもいいけど、ここの通称ではなさそうだし。ただみんながみんな知るほど常識的なことだというのは納得がいかないけれど……。
「……なるほどってなに」
「え、あ、ごめん」
桜井くんは眉間に皺をよせ、口端を斜めに下げ、難しい顔をしていた。もしかして何か話しかけられていたのかもしれない。
「結局ラブホってなんなんだろうって思ってたんだけど」
「ど?」
「欠陥ホテルのことを〝必要なものが欠けてるゼロの状態〟と掛けてラブと呼んでるんじゃないかと」
私なりに答えを見つけて明るい声を出したつもりだったのだけれど、雲雀くんは「は?」とヤンキー顔負け――違ったヤンキーだった――の不審通り越して怖い顔と声をしたし、桜井くんは首を四十五度に傾けた。
なにかが他のホテルの違うのだろうと決めつけて、二人が中津くんの動画片手にあれやこれや話すのを横に部屋のあちこちに目を配る。一見して普通のホテルと違うところがある気がしたけれど、その違和感の正体は分からない。
「なんか置けば分からないんじゃね? ほらこれでこうやって隠せば……」
「逆に不自然だろ。カバンを横向きに置くとか」
「あー、なるほどね。そうかも」
そっとバスルームを覗くと、円形の巨大なバスタブがある。バストイレも別なので、もしかして少し豪華なホテルだろうか……? ベッドも巨大で、私達三人なら川の字になって寝ることもできそうだ。ただ美人局なんてもののためにわざわざ豪華なホテルを選ぶ理由が分からない。豪華なホテルのほうが警戒心が弱まるとか……それはいわゆる行き摺りの関係で使える手段ではない気がするけど……。
「……もう角度分かったからよくね?」
「……まあいんじゃね。やるのお前だし、お前がいいなら」
「上手くやれるか分かんないけどさー、あんまりここいるの良くなくない? な、三国!」
そういえば天井が低くて狭苦しい気がする……と周囲を見回していて気が付いた。そうだ、窓がない。ホテルなのに窓がないなんて有り得ない。窓はあっても小さくて閉塞感があるなんてことは安いホテルならいくらでもあるかもしれないけど、この部屋にはそもそも窓がない。
「なるほど、なるほど……」
もしかしたら設計ミスで少し安いホテルなのかもしれない。……いや、いくらミスをしたって言っても窓がないなんて有り得ない、窓がないとしたらそれはミスではなくて意図的なはず……。もしかしてバブル期に建てられたホテル? 低予算の都合で何かを削る必要があって、でもよくあるように柱を削ると耐震上問題があるから窓を削った……。素人の勘だけれど、窓をつけるよりつけないほうが簡単に決まっているし、窓がないからといって建築上問題はない気がする。
合点がいった、設計ミスなんて大っぴらに口に出せることじゃないし、設計ミスで安いことに対する隠語としてラブホが使われているのかもしれない。……それにしたってなぜラブなのだという疑問はあるけど、愛は無償だからlove=zero、通常の設計上必要なものがない、つまりゼロからラブ……! ホテルGround-0の0=loveでもいいけど、ここの通称ではなさそうだし。ただみんながみんな知るほど常識的なことだというのは納得がいかないけれど……。
「……なるほどってなに」
「え、あ、ごめん」
桜井くんは眉間に皺をよせ、口端を斜めに下げ、難しい顔をしていた。もしかして何か話しかけられていたのかもしれない。
「結局ラブホってなんなんだろうって思ってたんだけど」
「ど?」
「欠陥ホテルのことを〝必要なものが欠けてるゼロの状態〟と掛けてラブと呼んでるんじゃないかと」
私なりに答えを見つけて明るい声を出したつもりだったのだけれど、雲雀くんは「は?」とヤンキー顔負け――違ったヤンキーだった――の不審通り越して怖い顔と声をしたし、桜井くんは首を四十五度に傾けた。