ぼくらは群青を探している
 何が残念なのかさっぱり分からない。能勢さんは眉尻を下げつつも笑みを浮かべるなんて不可解かつ器用な表情をしているので余計に分からない。


「……えっと……その、用途は理解しましたし、主たる目的がそれだというのも……分かりましたので」

「……つかお前らなんて言って教えた? いやなんて言ってつかどうやって?」


 私の背中に目はついていないけれど、二人が揃って目を逸らすのが目に浮かぶようだった。いかんせん蛍さんの顔から表情が消えたのだ、何か (蛍さんにとって)マズイ反応をしたに違いない。


「よし、そこに並べ。順番に聞く」

「えっそれ体に聞くとかそういうヤツっすよね! やだよ俺痛いの嫌い! てか悪いの侑生!」

「いや悪ノリが過ぎたのは絶対昴夜」

「悪ノリじゃないって! 悪ノリだったらもっとガチで押さえつけたりしたって!」

「もっと? ガチで押さえた?」


 多分蛍さんがロボットであればその目はギラリと怪しい光を放っていただろう。背後の桜井くんが「あっいや違います! 俺は押し倒してないです!」「俺は?」更に墓穴を掘る。


「いや……だから俺は悪くないんですよ……最初にやったの侑生だし……」

「おい言うんじゃねーよ!」

「何をやった?」

「いやなんも」

「言うなつったろ今」

「えーっとだから本当に悪いことはしてなくて、侑生が三国をベッドに押し倒しただけ」

「ほお」


 ……二人が怒られるとか怒られないとかそんなことはどうでもいいけれど、聞いていると私が恥ずかしいのでやめてほしくなった。


「確かに俺は押し倒しましたけどそれ以上何もしてないです。俺は服の上から肩押さえただけなんで。昴夜は服の中に手突っ込みましたけど」

「ほお」

「待って、突っ込まれてません」

「突っ込んでないじゃん! ちょっとティシャツ捲っただけじゃん!」

「いや普通に触ってたと思う」

「ちょっとね、ちょっとだけね! 三国が信頼してるから~とか言うからもう本当に三国なにも分かってないんじゃないかと思って!」

「AVつけた時点で分かりはしただろ」

「なに、君ら三人で観賞会でもしたの」

「してないです!」桜井くんが大声で「侑生が三国押し倒してテレビつけて『こういうことすんだよ分かったか』って言っただけです!」


 桜井くんのセリフに、蛍さんはまじまじと雲雀くんを見た。信じられないものでも見るような目つきだ。


「……お前マジでそれで手出さなかったのか。なんか見る目変わった、偉いな」

「最初からそう言ってるじゃないですか」


 最早二人がどんな顔をしているか想像もできなかったけれど、少なくとも何が起こったのかを赤裸々に話されて恥ずかしかった。顔から火が出るとはこのことだ。


「つかまあ全体的にマジでバカな三国が悪いです」

「私のせい……?」

「ラブホ知らねーのはマジで非常識」

「だ、だって使ったことないし……見たこともないし……雲雀くん達こそなんで知っ――」

「つか蛍さん聞いてください」雲雀くんは私の言葉をガン無視して「三国、ラブホのことなんだって言ったと思います? バブル期に低予算で建てられたせいで天井が低くて窓がない欠陥ホテル、そして欠陥=ゼロ=ラブでラブホテルですよ」

「…………」


 蛍さんはぱちぱちと何度か瞬きした。隣の能勢さんはぶっと吹き出したかと思うとヒイヒイ言いながらおなかを抱えて笑い始めた。


「……三国お前マジでバカか?」

「……確かに私は頭は悪いですが」

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