ぼくらは群青を探している
「頭が悪いとかじゃねーよバカだよ! 欠陥がラブってなんだふざけてんのか!」

「だ、だってなんか普通にお風呂とか豪華でしたし、ベッドも大きいし、普通のホテルとの相違点を探せと言われると天井の低さと窓がないことくらいしか……あ、でもお風呂の豪華さのわりにシャンデリアとか妙に安っぽくてやっぱりそこも予算配分がおかしいとすれば筋が通るところではあって」

「…………」


 蛍さんは深い溜息を吐いた。私の被害妄想でなければ、おそらく、ここからなんと言って私を叱るべきか考えている。でも私の思考が間違っていたことは既に雲雀くんにも桜井くんにも指摘された後だし、ここで更に蛍さんに叱られることはないはずだ。……多分。


「……まあこればっかりは三国が社会勉強不足だからしゃーない」

「ほーらね」

「俺達が教えなかったらちょっと休憩とか言って男に連れ込まれてそう」

「そんなに頭悪くないから」

「いーーーやお前は桜井並みにバカだ自覚しろ」

「なんで蛍さんまで俺と並べるの」

「いやいや、いいよ、三国ちゃんはしっかりそのままピュアでいな。(よご)すのも醍醐味だから」

「おい芳喜」

「ははは、冗談です」

「もう三国はいい」なんなら蛍さんは匙を投げ「桜井、お前がおとりやるの今日か?」

「そうですよー。もう緊張しっぱなし、やだ」

「しまりのない顔して何言ってんだ」

「で、三国ちゃんと雲雀くんがビデオ撮るの? 楽しそうだねえ」


 能勢さんはセリフのとおり笑っている。さっきから笑い過ぎてもう涙目だ。


「いいなー、俺も行きたいな」

「お前は雲雀の女装服用意してろ」

「俺マジで女装するんですか。死にたいんですけど」


 強い言葉には強い決意を感じる。それもそうだ、桜井くんと私はともかく、雲雀くんだけ羞恥プレイ。中津くんから飛んできた火の粉がなぜか大火事になっているといっても過言ではない。


「三国のためだつってんだろ? お前いいのか、白雪の巣窟(そうくつ)に三国一人放り込んで」

「だからそういう話はセコイでしょ」雲雀くんは珍しく声を荒げて「つか女装なら蛍さんの顔でもどうにかなるんじゃないですか」

「俺はお前らの安全確保のために後ろで待機してる」

「何ですかそれ。つか俺の身長で女装とか」

「大丈夫、俺の姉貴の服貸してあげるから」


 雲雀くんは苦虫を噛み潰した。余計な助け舟を出されたと思っているのだろう。


「いいねえ、俺もそういう企みやりたいな。ぜひ三国ちゃんと一緒に」

「…………」

「あれ、そんな本気で警戒する? 俺なにかしちゃった?」

「いえ……別に……」


 なにかされたわけではないけど、能勢さんはいつも笑顔で他の人以上に表情を読めないから苦手なのだ。雲雀くんでさえ無愛想なりに表情が動くし、そのパターン化も (時々間違えるなりに)できるようになったというのに、能勢さんはいつまで経ってもできる気がしない。それどころか声もいつも(ほが)らかで耳に心地がいい。余計にこの人は分からなかった。


「とりあえず、颯人の件は美人局の証拠掴みと交渉に限ってお前らに任せる。外は任せな」

「内は?」

「それは雲雀」


 ああ、遂に決行されるのか……と胃が痛くなってきたことなど関係なく、蛍さんも能勢さんも慈悲の欠片もなく、私達三人をその役割へとせっついた。

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