ぼくらは群青を探している
そういえば受信するばかりで返信すらしていなかった、と返信ボタンを押そうとすると、雲雀くんの手に止められた。驚いて顔を上げたけれど、その視線の先の桜井くんを見て理由が分かった。誰かに声をかけられている。
「……あれ美人局?」
「いや、二人組だから違うと思う。能勢さんが聞いてたのは全部一人だった」
ちょっと貸して、と雲雀くんに手を差し出されて携帯電話を渡すと、物凄いスピードで文字を打って桜井くんに「美人局じゃないからあしらえ」とメールを送った。
「さんきゅ」
「……雲雀くん、文字打つの速いね。女子高生の私も形無しだよ」
「形無しって言う女子高生いねーからな」
「……なんか意地悪言われた気がするんだけど気のせい?」
「気のせいだろ。三国、全体的に遣う言葉が文語っぽい」
やっぱり意地悪を言われている気がする……。「ど……どのあたりが……」「形無しとか」やっぱり意地悪だった。
「池田とか昴夜と会話が成立してんのが不思議なレベルだよな」
「……確かに陽菜は擬態語とか擬音語が多いかも」
桜井くんはどうだっけ……と美人局ではない二人組の女子に声をかけられる様子を観察しながら日々の会話を思い出す。陽菜ほど擬態語や擬音語が多いイメージはない代わりに、どことなく子供っぽい喋り方な気はするのだけれど、それはきっと雲雀くんの喋り方が落ち着いているという相対的な問題だろう。
「……桜井くんって、こう、親戚の小さい子が騒いでるイメージだよね」
「……なんとなく思ってはいたけど、やっぱ三国アイツのこと馬鹿にしてんな」
「してないよ、こう、弟みたいだなって思ってるだけで。そういえばね、この間うちに来たとき、桜井くんピアノを子守唄に寝ちゃって」
「アメイジング・グレイスを歌ってたっていうあれ?」
「うん。桜井くん、バイト明けだったんだよね。アメイジング・グレイスの後にカノン弾いてたんだけど、その途中で寝ちゃって」
「アイツ犬っころみたいな寝方するよな。広くても丸まって」
「犬っころ……確かにそうかも」
おばあちゃんが昔飼っていた雑種犬を思い出す。確かに冬になるといつも丸まって寝ていて、くしゃくしゃの毛玉が転がっているようだった。桜井くんが寝ている姿の写真を引っ張り出して並べてみると、確かに近い。
「……桜井くん、よく寝るの? 雲雀くんがそうやって見るくらい」
「ああ、アイツ家の鍵開けて寝てるから」
「……不用心」
「それこそ牧落とか勝手に入ってんだろ」
牧落さんは最近よく六組に遊びに来る。特に桜井くんと雲雀くんが群青のメンバーとなってから、その頻度は増した。理由はきっと桜井くんが夜不在にする日が多くなったせいだ。
「牧落さんって桜井くんと幼馴染なんだよね? 蛍さんも言ってたけど、ご飯持ってきたりする仲なんだ」
「いや別に、そんなんじゃねーよ。あれは最近の話。家には来てたけど飯は全然」
「そうなの?」
「そうだよ。昴夜も言ってたけど、もともと牧落の家は親が厳しいからな、あんまり昴夜の家に入り浸ってたら怒られるんだろ」
「ロミオとジュリエットみたい」
「そんな大げさなもんじゃねーだろ。……来たかもな」
雲雀くんの声で桜井くんへと視線を向ける。携帯電話片手に座り込んでいる桜井くんに高校生くらいの女子が話しかけている。今度は一人だ。
「美人局の人ってどんな人なんだっけ」
「黒髪ってことしか分かんね。あー、でも顔は、まあ、近い気もする」
「……あれ美人局?」
「いや、二人組だから違うと思う。能勢さんが聞いてたのは全部一人だった」
ちょっと貸して、と雲雀くんに手を差し出されて携帯電話を渡すと、物凄いスピードで文字を打って桜井くんに「美人局じゃないからあしらえ」とメールを送った。
「さんきゅ」
「……雲雀くん、文字打つの速いね。女子高生の私も形無しだよ」
「形無しって言う女子高生いねーからな」
「……なんか意地悪言われた気がするんだけど気のせい?」
「気のせいだろ。三国、全体的に遣う言葉が文語っぽい」
やっぱり意地悪を言われている気がする……。「ど……どのあたりが……」「形無しとか」やっぱり意地悪だった。
「池田とか昴夜と会話が成立してんのが不思議なレベルだよな」
「……確かに陽菜は擬態語とか擬音語が多いかも」
桜井くんはどうだっけ……と美人局ではない二人組の女子に声をかけられる様子を観察しながら日々の会話を思い出す。陽菜ほど擬態語や擬音語が多いイメージはない代わりに、どことなく子供っぽい喋り方な気はするのだけれど、それはきっと雲雀くんの喋り方が落ち着いているという相対的な問題だろう。
「……桜井くんって、こう、親戚の小さい子が騒いでるイメージだよね」
「……なんとなく思ってはいたけど、やっぱ三国アイツのこと馬鹿にしてんな」
「してないよ、こう、弟みたいだなって思ってるだけで。そういえばね、この間うちに来たとき、桜井くんピアノを子守唄に寝ちゃって」
「アメイジング・グレイスを歌ってたっていうあれ?」
「うん。桜井くん、バイト明けだったんだよね。アメイジング・グレイスの後にカノン弾いてたんだけど、その途中で寝ちゃって」
「アイツ犬っころみたいな寝方するよな。広くても丸まって」
「犬っころ……確かにそうかも」
おばあちゃんが昔飼っていた雑種犬を思い出す。確かに冬になるといつも丸まって寝ていて、くしゃくしゃの毛玉が転がっているようだった。桜井くんが寝ている姿の写真を引っ張り出して並べてみると、確かに近い。
「……桜井くん、よく寝るの? 雲雀くんがそうやって見るくらい」
「ああ、アイツ家の鍵開けて寝てるから」
「……不用心」
「それこそ牧落とか勝手に入ってんだろ」
牧落さんは最近よく六組に遊びに来る。特に桜井くんと雲雀くんが群青のメンバーとなってから、その頻度は増した。理由はきっと桜井くんが夜不在にする日が多くなったせいだ。
「牧落さんって桜井くんと幼馴染なんだよね? 蛍さんも言ってたけど、ご飯持ってきたりする仲なんだ」
「いや別に、そんなんじゃねーよ。あれは最近の話。家には来てたけど飯は全然」
「そうなの?」
「そうだよ。昴夜も言ってたけど、もともと牧落の家は親が厳しいからな、あんまり昴夜の家に入り浸ってたら怒られるんだろ」
「ロミオとジュリエットみたい」
「そんな大げさなもんじゃねーだろ。……来たかもな」
雲雀くんの声で桜井くんへと視線を向ける。携帯電話片手に座り込んでいる桜井くんに高校生くらいの女子が話しかけている。今度は一人だ。
「美人局の人ってどんな人なんだっけ」
「黒髪ってことしか分かんね。あー、でも顔は、まあ、近い気もする」