ぼくらは群青を探している
 十五センチ定規が間に入るか入らないかくらいの距離。通り過ぎる人が「高校生カップルだ、かわいー」と話しているのが聞こえた。私達のことかは分からなかったけれど、私達のことだとしても不思議ではないくらい、雲雀くんとの距離は近かった。

 雲雀くんが携帯電話を受け取ってくれてよかった。きっと、いまの私は桜井くんの声を集中して聞ける有様にはない。

 私と違ってちゃんと桜井くんの会話に集中している雲雀くんは、携帯電話を耳に押し当てたまま「……当たりだな」と小さく頷いた。


「録音されるとか思ってないんだろ、普通に情報垂れ流しだ」

「……これ私の手柄じゃなくて雲雀くんと桜井くんの手柄だよね」

「考えたのは三国だろ。……昴夜が立った。三国、そのまま」


 つい振り向くと雲雀くんに注意されたので向き直った。雲雀くんは私と違って絶えず桜井くんの様子を見て、そして聞いている。


「……切れた」


 雲雀くんは眉間に皺を寄せながら携帯電話を胸元まで下ろした。「通話終了」と表示されている画面には、暫くして「新着メール一件」と表示される。桜井くん以外の可能性があるからか、雲雀くんは一度携帯電話を返してくれた。


「……桜井くんからメール。『つつ』だって」

「打つの早いんだから美人局まで打てよ。ま、そういうわけだな。一応尾行する(つける)か」


 雲雀くんは少し視線を動かしたから、きっとドクターコーヒーの二人組の様子を確認したのだろう。それに気づいて私も視線を向けたけれど「三国、行くぞ」雲雀くんに腕を引っ張られてすぐに視線を外す羽目になった。さっきから右往左往してしまっている……。

 私と違い、雲雀くんは特に焦るわけでもなく、落ち着いて桜井くん達の後を追う。桜井くんと問題の女子は、のんびりと繁華街の人混みの中に紛れて歩いていた。


「……桜井くん、ああは言ってたけど、怪しまれてないね」

「まあ。アイツ元来人懐こいし」

「……あと、その、気になってたんだけど、中津くんって、こう、どこまで手を出してたの……?」


 雲雀くんの横顔が引きつった。答えにくい質問に困っている顔だ、これは。


「……なんでそんなこと聞く」

「……どのタイミングであの二人組出てくるのかなと思って。桜井くんがある程度どうにか……触るとかなんとかしないと出てこないのかなって」

「ああ、まあそれは昴夜と少し話したけど」


 横顔に見えていた緊張のようなものが少し解けた。多分、中津くんの話それ自体をする必要がなくなったからだ。


「中津に聞いた感じ、部屋の中で合図してる感じはなかった。多分どの部屋に入ったかまでの連絡しかできてないはず。連絡が来てから何分って決めて行ってるんだろうな」


 つまり……時間さえ稼げば証拠の動画は撮られずに済む。そう考えたのが伝わったのか、雲雀くんは頷いた。


「昴夜とは女から目を離さないこととできるだけ何もしないで時間稼ぐことは話してある。上手くやればこっちだけ動画が手に入って終わる」

「……上手くやりたいね」

「ま、問題はそんなに上手くいくかだけどな」


 不意に、前方を歩いていた女の子が桜井くんに縋り付くようにして腕を組んだ。桜井くんは特に驚いた様子はなく、その力に引っ張られるようにして方向転換する。


「Ground-0に行く道だな」

「あ、そっかここから入れるんだ」

「まあ確定だよな。十五分くらい待てばドクターコーヒーにいたヤツらが出てくるだろ」


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