ぼくらは群青を探している
俺達の役目はここまで、そんな口ぶりにほっと胸を撫で下ろした自分がいた。桜井くんが前面に出るから……と言い聞かせることでどこか安心していたらしい。我ながら他力本願で恥ずかしい。
「ドクターコーヒーからGround-0に行く道ってここが最短ルートってわけじゃないよね? って言ってもGround-0の前に立ってるわけにも行かないけど……」
「部屋では金払えって脅されるだけだから昴夜も一人で平気だろ。別にホテルの前で待機しなくていいし、むしろあの二人組と鉢合わせしないようにしたほうがいい」
「……確かに」
雲雀くんの冷静な指摘にはただただ頷くしかなかった。どうやら私は現場判断に弱いらしい。
「……じゃあここで待っとく?」
「それでいいと思う」
沈黙が落ちた。ホテルGround-0がある通りから二つ離れた大通りで、近くにラブホがあるとか関係ありませんなんて顔で立っているチューリーズコーヒーの前で、私達はただぼんやりと立ち尽くす。人通りが段々と増えてきていることもあって、高校生が二人でチューリーズコーヒーの前に立っていても気に留める人はいない。
「……コーヒーでも飲む?」
「……昴夜が怒りそうだけどな」
と言いつつもその足はお店に向いた。結果、私と雲雀くんはテラス席が空いているのをいいことに悠々とアイスカフェオレを飲みながら桜井くんの任務遂行を待つことになった。向かい側に座る雲雀くんは、やはりこうしていると〝ありふれた〟高校生に見える。
「……雲雀くんが普通科に入った理由はなんだったの?」
「……急だな」
「ごめん、なんか今日は髪が黒いからあんまり普通科の男子っぽくないなと思って、そこから連想ゲーム」
雲雀くんは無言でストローを咥えた。一応、その目はホテルGround-0がある通りの入口から離れていないままだ。
「……特別科に入ったら、なんか周りが鬱陶しそうじゃね」
「……周りが鬱陶しい?」
「……俺と昴夜は中学のときからこんなだから、俺らの素行の悪さみたいなのって大体みんな知ってんだよ」
雲雀くんの手を離れたプラスチックカップはガラッと音を立てた。雲雀くんはストローを摘まんで氷の隙間を通し、残る液体を飲むための微調整をしている。
「そういうヤツらの中にいると目立つだろ。目立てばコソコソ陰で言うやつも出てくるし、特別科にいると先公もちゃんとしろって言い出すし。普通科だったら俺らみたいなのがいても目立たないし、なんか言われるって言っても〝あの桜井と雲雀〟って言われるくらいで済むし、先公も普通科のことは集金袋くらいにしか思ってねーから関わってこないだろうし。いいことづくめだろ」
集金袋という言い方は悪かったけれど、的を射てはいた。結局、学校側が特別科と普通科を選り分けて、そして掃きだめにも等しい普通科を残しているのは、私立高校にとって生徒数が大事だからだ。
でも、灰桜高校普通科なんて言ったらそれはそれで別のレッテルは貼られるのに、それを厭わないほど特別科の環境は鬱陶しいものだろうか。
「別に、灰桜高校なんてここら辺で有名なだけで、全国なら知ってるヤツなんていねーだろ」
そんな私の考えを読み取ったかのように、雲雀くんは残るカフェラテを啜った。きっと氷が溶けて半分以上が冷水だったのだろう、その眉は若干寄って不愉快そうになる。
「ドクターコーヒーからGround-0に行く道ってここが最短ルートってわけじゃないよね? って言ってもGround-0の前に立ってるわけにも行かないけど……」
「部屋では金払えって脅されるだけだから昴夜も一人で平気だろ。別にホテルの前で待機しなくていいし、むしろあの二人組と鉢合わせしないようにしたほうがいい」
「……確かに」
雲雀くんの冷静な指摘にはただただ頷くしかなかった。どうやら私は現場判断に弱いらしい。
「……じゃあここで待っとく?」
「それでいいと思う」
沈黙が落ちた。ホテルGround-0がある通りから二つ離れた大通りで、近くにラブホがあるとか関係ありませんなんて顔で立っているチューリーズコーヒーの前で、私達はただぼんやりと立ち尽くす。人通りが段々と増えてきていることもあって、高校生が二人でチューリーズコーヒーの前に立っていても気に留める人はいない。
「……コーヒーでも飲む?」
「……昴夜が怒りそうだけどな」
と言いつつもその足はお店に向いた。結果、私と雲雀くんはテラス席が空いているのをいいことに悠々とアイスカフェオレを飲みながら桜井くんの任務遂行を待つことになった。向かい側に座る雲雀くんは、やはりこうしていると〝ありふれた〟高校生に見える。
「……雲雀くんが普通科に入った理由はなんだったの?」
「……急だな」
「ごめん、なんか今日は髪が黒いからあんまり普通科の男子っぽくないなと思って、そこから連想ゲーム」
雲雀くんは無言でストローを咥えた。一応、その目はホテルGround-0がある通りの入口から離れていないままだ。
「……特別科に入ったら、なんか周りが鬱陶しそうじゃね」
「……周りが鬱陶しい?」
「……俺と昴夜は中学のときからこんなだから、俺らの素行の悪さみたいなのって大体みんな知ってんだよ」
雲雀くんの手を離れたプラスチックカップはガラッと音を立てた。雲雀くんはストローを摘まんで氷の隙間を通し、残る液体を飲むための微調整をしている。
「そういうヤツらの中にいると目立つだろ。目立てばコソコソ陰で言うやつも出てくるし、特別科にいると先公もちゃんとしろって言い出すし。普通科だったら俺らみたいなのがいても目立たないし、なんか言われるって言っても〝あの桜井と雲雀〟って言われるくらいで済むし、先公も普通科のことは集金袋くらいにしか思ってねーから関わってこないだろうし。いいことづくめだろ」
集金袋という言い方は悪かったけれど、的を射てはいた。結局、学校側が特別科と普通科を選り分けて、そして掃きだめにも等しい普通科を残しているのは、私立高校にとって生徒数が大事だからだ。
でも、灰桜高校普通科なんて言ったらそれはそれで別のレッテルは貼られるのに、それを厭わないほど特別科の環境は鬱陶しいものだろうか。
「別に、灰桜高校なんてここら辺で有名なだけで、全国なら知ってるヤツなんていねーだろ」
そんな私の考えを読み取ったかのように、雲雀くんは残るカフェラテを啜った。きっと氷が溶けて半分以上が冷水だったのだろう、その眉は若干寄って不愉快そうになる。