ぼくらは群青を探している


「お前、真顔ですげー面白いこと言うな」

「先公たち、願書見て絶対つっこんだよなー。なんでこの成績で普通科なんだって」

「特別か普通か聞かれたので普通に丸つけました、って言われたら何も言えねーな」

「舜、三国のこと知ってんのかな」

「知ってたら絶対口説いてるだろ、アイツ。なあ、三国、お前、荒神(あらがみ)舜に口説かれたことあるか?」


 雲雀くんは、笑い過ぎて涙まで浮かべていた。ちなみにその名前には覚えがあって、二年生のときに同じクラスだった。


「……いや、ないけど」

「なんだ、ないのか」

「舜に口説かせたいなー。そんですげー斜めの方向にフラれてほしい」


 ゲラゲラと二人は笑い続けているけれど、なんとなく、馬鹿にされているわけではないことは分かった。お陰でどこかホッとした。〝死二神〟なんて呼ばれていて、二人が通った後はぺんぺん草も生えない焼野原と化すなんて噂はやっぱりただの噂だ。そんなに怖い人達じゃない――。

 その時だ。ズン、ズン、と廊下から地響きのような足音が聞こえ始めたのは。

 笑いながら喋り続けているのは、桜井くんと雲雀くんだけだ。教室内を観察すると、まるで恐ろしいものの登場を察知しているかのように、みんなは口を噤んでいた。

 ぬっと廊下に現れたのは、長身で大柄、坊主頭に()りこみを入れた男子だった。学ランの(えり)についたバッジを見れば、三年生だった。その学ランはやっぱり丈が短くて、その人のお腹より上のあたりで切り落とされている。屈強な体には窮屈そうだった。

 そして更にその後ろに、それなりに体の大きい三年生が二人いた。両方とも金髪で、でも片方はプリンのように脳天だけ黒かった。

 その三人のうち、坊主頭の三年生が教室内を覗き込んだ。ぎょろりなんて形容が似合う大きな目で、分厚い唇や坊主頭も相俟(あいま)ってまさしくゴリラのような顔だった。

 クラスメイト達は、まるで怪物に見られているかのような反応をしていた。みんなお行儀よく机につき、何もない机の上を凝視している。目を合わせたらあの怪物に殺される、そう思っているかのように。

 何も反応しないのは、二人だけだ。それどころか桜井くんと雲雀くんは「そういや俺アイツに五百円貸したままなんだけど」「それ去年から言ってね?」「言ってる、そろそろ時効かも」なんてくだらない話を続けている。

 あの怪物は、多分桜井くんと雲雀くんに用があるんだと思うんだけどな……? そう思っていたのは私だけではないはずだ。

 廊下の外から、怪物は舌打ちした。舌打ちにしては大きすぎて、ボディパーカッションかと思うくらいだった。


「おい、桜井、雲雀」


 やっぱりこの二人だった……。呼ばれたのは私ではないのに、その呻るような声に縮み上がってしまった。

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